抄録
いり酒と早いり酒を江戸期の料理本の記述をもとに再現し,成分特性の分析と官能評価を行った。いり酒の呈味成分の特徴は,古酒にかつお節のIMPのうま味と梅干しのクエン酸の酸味が合わさったものであり,早いり酒は,古酒にしょうゆのグルタミン酸のうま味と酢の酢酸で酸味をつけたものであった。いり酒と早いり酒の塩分濃度は,いずれもしょうゆに比べて低かった。いり酒を保存すると,保存日数の経過に伴い,濁度とb*値が上昇した。この現象は35℃で顕著であったが,5℃での変化は小さかった。いり酒,早いり酒,しょうゆをそれぞれ刺身に使用すると,しょうゆに対する嗜好評価が高く,いり酒に対する評価は低かった。野菜につけた場合の好みの評点は,きゅうりとほうれんそうで早いり酒の評価が高く,早いり酒は現代の食生活に受け入れられ,利用可能であることが示唆された。