千葉県立保健医療大学紀要
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第13回共同研究発表会(2022.9.12~9.16)
3次元動作解析システムを用いたベッドからの起き上がり動作中の関節角度計測法の信頼性
大谷 拓哉三和 真人堀本 佳誉江戸 優裕
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2023 年 14 巻 1 号 p. 1_84

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抄録

(緒言)

 ベッドからの起き上がり動作は,ベッド上臥位から立ち上がりや歩行へと移行する際に経由する動作である.この動作に関する研究は動作パターンに着目した定性的な研究が多く,動作特性を定量的に検証した研究は意外なほど少ない.

 動作特性を示す定量的要素の一つに関節角度がある.ベッドからの起き上がり動作中の関節角度を検証した先行研究では,計測方法の詳細が記述されていない,関節角度の同定方法が適切でないなどの問題があり,結果の解釈が困難となっている.ヒトの動作中の関節角度の計測手法として現在最も一般的なのは3次元動作解析システムとオイラー回転を用いた手法であり,ベッドからの起き上がり動作ついても,この計測法を用いることが妥当であると考えられる.ベッドからの起き上がり動作中の関節角度の計測に本計測法を適用するに先立ち,まず計測法の信頼性を明らかにする必要がある.

 そこで本研究では,ベッドからの起き上がり動作中の関節角度について,3次元動作解析システムを用いた計測を行い,本計測法の信頼性を明らかにすることを目的とした.

(研究方法)

 対象は健常若年男性4名(全員20歳)とした.ベッドからの起き上がり動作は,ベッド上仰臥位からベッド右側に両足を下した端座位へと姿勢を変換する動作とした.開始時の臥位姿勢では,両上肢は伸展位,前腕回外位とし手掌を上方に向けた.両下肢は10cm開脚位とした.終了姿勢は端座位となり両手を膝の上に置いた姿勢とした.ベッド上の臥位位置については,身体左右中心がベッド右端から48.5cm の位置にくるようにした.起き上がり方法については被験者の最も起き上がりやすい方法とした.起き上がる速度は被験者の至適速度とした.計測は2回のセッションに分けて実施した.1回のセッションで各被験者は起き上がり動作を3回実施した.関節角度の計測には3次元動作解析システム(Mac3D system)を用いた.赤外線反射マーカを身体の32箇所に貼付し,動作中のマーカ位置情報をサンプリング周波数60Hzで記録した.得られたマーカ位置情報を用いて各セグメント間のなす角度(頸部,体幹,肩,肘,股,膝の各関節角度)を算出した.関節角度は起き上がり動作時間で正規化し,2%毎のタイミングにおける関節角度を分析対象とした.セッション内およびセッション間の信頼性の指標として,within-session error (σw) ,between-session error (σb ) およびその比であるσb / σwを算出した.加えて,関節角度波形のセッション内およびセッション間信頼性の指標として,adjusted Coefficient of Multiple Correlatio(それぞれwCMCおよびbCMC)を算出した.

(結果)

 σb / σwについては30の運動のうち2つの運動(左膝関節回旋,右股関節回旋)で2を上回った(それぞれ2.40と2.05).それ以外の運動は2未満であった.セッション内の関節角度波形の近似性(wCMC)については,30の運動のうち3つの運動(頸部側屈,体幹側屈,体幹回旋)で0.6未満となった.セッション間の近似性(bCMC)については,30の運動のうち6つの運動で0.6未満となった.

(考察)

 σb / σwについてはほとんどの運動で信頼性の目安となる2.0未満の数値を示したが,一部,信頼性の低い運動が認められた.関節角度波形の近似性については,セッション内近似性は低くないにも関わらず,セッション間近似性が低いものが散見された.以上の結果は,セッション(測定日)が異なると計測値が変動しうることを示している.本計測法を用いてより信頼性の高い計測結果を得るには,同一日に複数回計測して平均するのみでなく,できれば計測日を変えて計測し,その結果を平均するほうが望ましいと考えられる.

(倫理規定)

 本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認された後,実施した(申請受付番号2020-05).本研究において開示すべき利益相反はない.

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