千葉県立保健医療大学紀要
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第13回共同研究発表会(2022.9.12~9.16)
看護系大学生の「主体的に学ぶ力」の向上を支援する取り組みと効果
渡辺 健太郎河部 房子
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2023 年 14 巻 1 号 p. 1_93

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抄録

(緒言)

 近年,多くの大学で初年次教育が行われている.特に,「高校までの受動的な学習から,能動的で自立的,自律的な学習態度への転換を図る」ための内容は,生涯にわたり自律的に学習できる看護職者を養成するため,看護系大学にとって重要である.このような主体的な学習を理論的に説明しようとする概念が,自己調整学習(Self-Regulated Learning以下,SRL)である.SRLとは,学習者がメタ認知,動機づけ,行動において,自分自身の学習過程に能動的に関与することである.

 SRL能力の高い学生は,自己効力感や看護技術における自信や習得度などが高いことが明らかにされている.一方,1年次と4年次におけるSRL能力に差がないことが報告されており,SRL能力は経時的に変化しないため,その向上に向けた介入が必要である.本研究は,看護系大学生の主体的に学ぶ力の向上を支援するために「学び方を学ぶ」活動を実施し,SRL能力に与える効果を解明することを目的とした.

(研究方法)

 研究デザインには,単一事例実験 ABデザインを採用した.対象者は,本学看護学科2021年度入学生のうち,研究参加への承諾の得られたものとした.

 測定用具として,大学生を対象としたSRL方略尺度1)を用いた.この尺度は,学習における「認知」「動機づけ」「行動」「感情」の調整方略を問う24項目から構成される.各項目に対し,「とてもあてはまる」から「まったくあてはまらない」の5件法により評定を求めた.データ収集方法には,Microsoft Formsを用い,無記名でのweb調査を実施した.

 介入前に1週間あけて3回測定を行い,尺度総得点の安定が確認されたため,これをベースラインとした.介入として,「学習設計マニュアル(北大路書房)」による自己学習を中心に,各章の学習ごとにグループ学習を実施した.グループ学習への参加は任意とし,30分程度で各自の学習内容を共有した.研究者は,ファシリテーターとして参加した.また,各章の学習ごとに同尺度による評定を求めた.

 分析には,web アプリ2)を使用し,Tau-U を用いてベースライン期と介入期の尺度総得点を比較し,効果量を算出した.

(結果)

 参加者は全員女性で,平均年齢は18.4歳だった.社会人経験や編入学経験はなかった.

 欠損値のない4例を分析対象とし,介入前後の尺度総得点を比較した結果,参加者1(Tau=1.0),参加者2(Tau=0.75),参加者3(Tau=0.5)に得点の増加傾向が見られた.また,参加者1に有意な増加が見られた(p < .05).参加者4(Tau=-0.5)には得点の増加が見られなかった.

(考察)

 本介入は適度~非常に大きな効果があると評価でき,「学び方を学ぶ」ことは,看護系大学生のSRL能力に一定の影響を及ぼすことが示唆された.初年次教育などに取り入れることにより,自律した学習者の育成につながる可能性がある.

 一方,変化の見られなかった例ではベースライン期の尺度総得点が比較的高く,介入による得点の上昇がみられなかった可能性が考えられる.すでにSRL方略を習得している学習者にとっては,介入の効果が得られないことが示唆された.診断的評価を行い,必要な学習者のみに介入することも有効である.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を受けて実施した(申請番号:2021-03).

(利益相反)

 本研究における開示すべきCOIはない.

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