1989 年 99 巻 8 号 p. 899-
4歳女児と11ヵ月男児の,Hutchinson徴候を伴った爪甲下色素性母斑2例を経験した.文献的にも稀で爪甲下悪性黒色腫やその早期病変との鑑別が問題となったが,組織学的にはいずれのHutchinson部でも異型性のないメラノサイトが類円形の胞巣を形成しており,全体の構築から,女児例は境界型,男児例は混合型の色素性母斑と診断した.しかし爪母から爪床部にかけては基底層に沿い連続性にメラノサイトが増生し,特に男児例では樹枝状突起の発達が顕著な大型メラノサイトが密に増殖していた.顕微蛍光側光法により色素細胞の核DNA量を定量分析すると,女児例ではdiploid patternを示したが,男児例では比較的多数のpolyploid cellが出現し,またaneuploid cell populationの存在が示唆され,一部の増殖細胞が悪性化能を有するクローンである可能性が示唆された.Hutchinson徴候を伴う乳幼児の爪甲下色素性病変の中には,将来悪性黒色腫になりうる注意すべき症例が含まれていると考えた.