応用生態工学
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原著論文
大都市を流れる豊平川における河川地形の経年変化とサケ産卵環境への影響について
有賀 望森田 健太郎有賀 誠植田 和俊渡辺 恵三中村 太士
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2021 年 23 巻 2 号 p. 295-307

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抄録

北海道札幌市を流れる豊平川では,1980 年代にまとまった個体数のサケの遡上が再開し,近年の調査では自然産卵由来の野生魚の遡上が平均 700 尾まで回復した.一方で,河川整備が進み,本来の扇状地河川が持つ礫河原の地形は失われてきた.川で自然再生産する野生サケにとって,河川地形の変化は繁殖に影響を与えていると考えられる.そこで,豊平川における地形因子(最深河床高変化量,平均河床高変化量,平均粒径,低水路の比高差,産卵期の水面幅,澪筋移動距離,産卵期の分流数,地下水位差)の変化とそれがサケの産卵環境に与える影響について検証した.その結果,豊平川の河川地形は,上流・中流区間で河床高が低下し,河床材料の粒径が大きくなる傾向が顕著であった.また,低水路の比高差は大きくなり,サケ産卵期の水面幅は狭まり,澪筋移動距離が減少する傾向だった.一方,上流と中流では地下水が流出しやすい傾向に変化していた.主成分分析の結果,砂利が移動するような低水路内の攪乱の受けやすさを示す主成分 1 と湧水の出やすさと粗粒化していない河床を示す主成分 2 が抽出された.主成分 1 と 2 は,共にサケの産卵床数と有意な正の相関があり,サケの産卵適地を表す指標の一つとして有効であると考えられた.サケの産卵床は,いずれの年においても下流区間に集中しており,2010 年以降は上流にも分布するようになった.主成分 2 は経年的にプラスの方向に変化していたが,主成分 1 は経年的に減少しており,サケの自然再生産に負の影響を及ぼしていることが懸念された.都市河川において,治水と環境のバランスをとることは難しい課題であるが,豊平川のサケはその歴史を背景に,治水,利水,環境のバランスを保った河川を目指すための貴重な環境アイコンであり,自然再生産を維持するためには,"動く川"すなわち流路変動と砂礫堆の移動が常に起こるような河川を目指す必要がある.

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