応用生態工学
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事例研究
琵琶湖流入河川におけるトウヨシノボリを用いた瀬切れ規模の評価
太田 真人泉 香名遊磨 正秀
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2021 年 24 巻 1 号 p. 39-50

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抄録

琵琶湖流入河川では,夏季に瀬切れ現象が頻繁に生じている.瀬切れは,河川性動物に大きな影響を与えることが指摘されており,特に回遊魚にとっては,生活史において重要である移動を阻害するといわれている.本研究では両側回遊魚であるトウヨシノボリを対象に,同種当歳魚の遡上の状況から瀬切れ発生の評価が可能であるか検証をした.調査は 2008 年に琵琶湖に流入する 6 河川の下流部と中流部において,トウヨシノボリ当歳魚の遡上が終了したと考えられる 9 月から 11 月にかけて行った.また本種当歳魚が下流から中流へとどれだけ遡上できているかを示す指標として採集努力量当たりの採集数から当歳魚遡上指数と過去遡上指数を求めた.その結果,当歳魚遡上指数の平均値は,瀬切れが確認されなかった 3 河川で高く,瀬切れを確認した残りの 3 河川では低かった.説明変数に調査日ごとの当歳魚遡上指数,河川ごとの調査地間距離(km),調査地間の高度差(m).目的変数を瀬切れ区間距離として重回帰分析を行った結果,有意な関係がみられた説明変数は調査日ごとの当歳魚遡上指数のみであった.このことから瀬切れ区間距離はトウヨシノボリの遡上状況から推測が可能であることが示唆された.このことを踏まえ,各河川の過去遡上指数(2007 年以前に遡上)と平均当歳魚遡上指数(2008 年)の関係を比較した結果,ほとんどの河川では両指数は類似した値を示し,愛知川は両指数値が非常に低かった.また安曇川と犬上川は平均当歳魚遡上指数と過去遡上指数に大きな違いがみられた.これより愛知川は毎年トウヨシノボリの遡上に大きな影響を与える瀬切れが発生していたと考えられ,安曇川と犬上川も年によって大きな遡上阻害が発生していたことが示唆された.これらのことから,瀬切れはトウヨシノボリの当歳魚遡上に大きな影響を与え,遡上状況から瀬切れの規模を推測することが可能であり,過去の瀬切れ発生についても推測できることが示唆された.

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