抄録
自然再生事業には, 生態系の機能回復とならび人と自然の関係性, 持続可能な技術や知恵を受け継ぐ文化の再生などを含む, 総合的な目標を達成することが求められる. そのため, 自然再生を実施しようとする個々の地域の歴史的・文化的特性や地域住民の自然環境に関する価値観などの人文社会科学的な側面に関する分析を踏まえた目標設定や実施計画が必要である. 本研究は, 佐賀県松浦川流域で実施されているアザメの瀬地区の近隣住民への聞き取りを中心とした調査を通じ, 地域の河川や水田・水路・ため池などの農業用水における水辺の自然環境とそれに関わってきた人々の暮らしの様子, またその変遷, 人々の事業への関心や期待を明らかすることを試みた. 調査は対面による半構造的な聞き取りと質問紙法を組み合わせ, 割当抽出にしたがって若年層 (10-29歳), 中年層 (30-49歳), 前期高年層 (50-69歳), 後期高年層 (70-89歳) の合計89名の事業地近隣住民を対象とした. その結果, 自然体験の多寡や認識される生物相や分類レベルには世代間で有意な差があり, 事業への参加意欲や再生したい自然のイメージも年齢層によって異なることが明らかになった. これらの結果から, 日本における自然再生事業には地域の文化的・歴史的背景を配慮し, 地域社会の自然環境に対する意識や要望に応えるためのソフト面での支援プログラムが必要となることが考察された. これに関して, 保全生態学的社会調査は自然再生事業などの場面において事業に関わる実務者と地域社会との係わり合いを築くきっかけとなり, 事業への関心を高め, 参加を促す役割を果たしうる. そのため, 今回の試行的調査の利点と改善点を明らかにし, 同様の保全生態学的社会調査の自然再生事業へのより広範な適用を提案した.