抄録
外来種の侵入と河原固有の在来種の衰退が著しい多摩川中流域の河川敷から土壌を採取し,その化学性を分析した.多摩川中流域の本来の環境に近い永田の土壌は強いアルカリ性を示し,人為的な影響が大きい関戸・是政に比べ有意に高いpHであった。河原固有種が分布するような礫質の河原は,貧栄養であったことから,カワラノギクは貧栄養なアルカリ性の環境に馴化した種である可能性が考えられた.また,NO3- ,K+,NH4+間にそれぞれ有意な正の相関が認められ,多摩川中流域における富栄養化にこれらイオンが相補的に寄与している可能性が示された.さらに,pHとNH4+は有意な負の相関を示し,調査域の富栄養化がpHの低下を伴うことが考えられた.永田のハリエンジュ林は,河原に比べ高濃度のNO3-が検出されたが,出水後に著しく減少し,出水が貧栄養化に寄与することが確認された.HPO42--P,およびNH4+も特徴的な変動を示し,河川敷土壌の化学性は出水により劇的な影響をうけることが示された.土壌pHの低下および出水頻度の減少に伴う富栄養化は土壌の化学的環境を変質させ,河原固有種の衰退および外来種の侵入を助長している可能性が示唆された.