抄録
成体脳における神経新生は,主に脳室下帯と海馬歯状回の2領域で起きる.この領域に存在する神経幹細胞には,増殖・分化の程度が異なる様々な細胞が混在する.大多数を占める静止型神経幹細胞は,その一部が増殖能を持つ活性化型の神経幹細胞に変化し,その後幼若な神経の性質を持った神経前駆細胞へ分化する.しかしながら,移り変わる細胞の分化状態をどのように捉えるかについて,既存の増殖・分化マーカーの発現や細胞形態による解析では,そのheterogeneity(不均一性)や分子動態を捉えることは困難であった.近年,単一細胞でのRNAシークエンス(RNA-seq)解析とそれに続くバイオインフォマティクス解析が確立し,これらを用いたin vivoでの成体神経幹細胞の新たな細胞集団の同定やその関係性が明らかになりつつある.
本稿ではその中で,マウス脳室下帯由来の神経幹細胞の新たな分類と新規な分子マーカーの同定を行ったDulkenらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Dulken B. W. et al., Cell Reports, 18, 777–790(2017).
2) Llorens-Bobadilla E. et al., Cell Stem Cell, 17, 329–340(2015).
3) Shin J. et al., Cell Stem Cell, 17, 360–372(2015).