抄録
津波への根返り耐性に影響する樹木の根系について、砂丘環境に植栽された広葉樹が山地と同様の根系分布を有するのか確認するため、植栽年が異なる秋田県の2つの海岸林において、クロマツおよび広葉樹数種の根系分布を調査した。林齢16年生の調査地においては、シナノキやクロマツについては既往の研究における山地の根系分布の形態的特徴との類似が観察された。しかし、カシワの1個体やケヤキについては観察されなかった。これは隣り合う植栽木と近接していたこと、根系の成長を阻害する埋設物(肥料袋やプラスチックゴミ)が影響したと推察された。林齢43年の調査地においては、掘り取り対象としたカシワ、ケヤキ、クロマツすべての樹種で山地の根系分布との類似が観察された。両調査地において掘削した深さでは長期にわたる土壌水の停滞は確認されず、停滞水による根の成長阻害はないと推察された。また調査対象木周辺の土壌において、植物の根の侵入が困難とされる固結層は確認されないか、確認されても固結層を突き抜けて根系が伸長していた。これは両調査地が砂質土壌であり、透水性が高いことに起因していると考えられた。これらのことから、埋設物がある、土壌中での水の停滞があるといった根系成長を阻害する要因がなければ、広葉樹の根系は砂質土壌の海岸砂丘地においても山地と同等の分布や形態となることが示唆された。