抄録
福島第一原子力発電所事故によって汚染した樹皮や材の放射性セシウム (137Cs)濃度を長期的にモニタリングするためには、試料は樹木を伐倒せずに立木から部分的に採取することが望ましい。しかし、樹皮や材中の137Csの分布は均一ではないと想定されるため、部分的なサンプリングによる観測誤差を明らかにし、その妥当性を確認する必要がある。本研究では、樹皮および材の137Cs濃度の樹幹円周方向の分布を明らかにするとともに、部分的なサンプリングによる樹皮および材の137Cs濃度の観測誤差を明らかにすることを目的とした。2015年に伐採した樹幹を8方位 (一部4方位) に分割して求めた137Cs濃度の円周方向分布には、樹皮と材でそれぞれ平均34%と13%の相対標準偏差があったが、特定の方位への偏りや樹種依存性は見られなかった。2016年以降に樹幹から部分的にサンプリングした試料 (樹皮は3cm × 3cmのピース × 4方向、材は直径12mmのコア × 1–2方向) から求めた137Cs濃度には、樹皮と材でそれぞれ約38%と約8–18%の観測誤差があると推計され、いずれも偶然誤差だと考えられた。例えばこの部分的なサンプリングによって137Cs濃度の林分平均値を伐倒サンプリング (観測個体数3) と同程度の精度で推定するためには、樹皮の場合は観測個体数を6–8に増やす必要があることがわかった。