日本理科教育学会研究紀要
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化学教育のための反応速度論教材の研究 ―クロム(III)-EDTA錯体の生成反応―
竹村 安弘
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1980 年 21 巻 1 号 p. 29-34

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抄録

大学一般教育課程などにおける化学教育のための反応速度論教材の検討の一環として,時計反応に代るものとして,クロム(III)とEDTAによるクロム-EDTA錯体の生成反応を調べた。当該反応はC.E. Hedrickによってペンシルベニア大学で実践ずみであるが,反応自体が彼の論文に報告されている程には,単純ではなく,従って実験条件,測定データの処理法,反応速度式の決定,反応速度の導出法などを再検討する必要がある。本研究では,生成する錯体の濃度を分光光度計で経時的に計測し,これをチャート紙上にペン書きさせた。主な反応条件としては,反応温度20~50℃,クロム初濃度0.75×10-3~4.50×10-3M/ℓ,水素イオン初濃度8×10-6~4×10-5M/ℓ。反応の進行にともない反応系の水素イオン濃度が激しく変化し,これが反応速度に影響を与えた。そのため,常法の分離法が適用できず,反応速度式の決定に先立って,初速度を求めた。その結果,反応速度は, EDTAの大過剰存在下で,次式で整理できることがわかった。r=k〔Cr3+〕・〔H+-1 反応速度の導出に当っては,錯体濃度の精測はもとより,水素イオン濃度のより精密な測定が要求される。当該反応は,一種の逐次反応であり,導出された速度式を用いて,反応機構の概要を理解し得る。定常状態法の学習の前提としても適当と思われる。

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© 1980 一般社団法人日本理科教育学会
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