日本薬理学雑誌
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特集:ケミカルバイオロジー入門
核内受容体を標的とするケミカルバイオロジー研究
影近 弘之
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2008 年 132 巻 1 号 p. 11-17

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抄録
核内受容体は,ステロイドホルモンや活性型脂溶性ビタミンA,Dなどの生理作用を担う受容体であり,リガンド依存的転写因子として,特異的な遺伝子の発現を厳密に制御している.核内受容体とその特異的リガンドの機能は,がん,自己免疫疾患,生活習慣病の発症や治療と密接に関与していることから,これらを制御する小分子の創製とそれを用いたケミカルバイオロジー研究は,創薬への応用が期待され,活発に行われている.筆者らは,レチノイドの医薬化学研究を行い,all-trans-レチノイン酸(ATRA)をリード化合物として構造展開することにより,レチノイドの2種類の核内受容体RAR,RXRの特異的な合成アゴニスト,アンタゴニストを創製してきた.更に,核内受容体のリガンド結合部位の結晶構造をもとにバーチャルライブラリーや市販品データベースを用いたin silicoリガンド探索法により,ユニークな骨格を持つリガンドを種々見いだしてきた.一方,ホウ素クラスターであるカルボランを疎水性ファーマコフォアとして用いることにより,レチノイドだけでなく様々な核内受容体リガンドを創製した.これらのカルボラン含有核内受容体リガンドは核内受容体を分子標的とした中性子捕獲療法への応用も期待できる.以上の合成リガンドは核内受容体の新たな機能を解明するケミカルツールとして有用であるばかりでなく,合成レチノイドAm80が急性前骨髄球性白血病治療薬として認可され,実際に臨床の場で用いられるに至った.Am80を用いた基礎研究および動物実験から,レチノイドの新たな機能が発見され,それを元に,自己免疫疾患や血管病変等に対する新たなレチノイド療法が検討されている.
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© 2008 公益社団法人 日本薬理学会
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