日本薬理学雑誌
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132 巻 , 1 号
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特集:ケミカルバイオロジー入門
  • 萩原 正敏
    2008 年 132 巻 1 号 p. 4-6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    ケミカルバイオロジーという化学と生命科学の融合した新しい学問領域が勃興しつつある.ケミカルバイオロジーでは,ケミカルライブラリーからハイスループットスクリーニングなどによって有用な化合物を発見し,それらを用いてケミカルジェネティクスなどの手法で生命現象を担う仕組みの解明を目指す.このようにアプローチの方向は少し異なっているが,研究に低分子化合物を使う点で,ケミカルバイオロジーと薬理学とは共通項を有する.
  • 小島 宏建, 長野 哲雄
    2008 年 132 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    生命科学研究のゴールの一つは生理活性分子 (生理活性小分子のみならず受容体,酵素,イオンチャネルなども含む)の作用を生きている(あるいは活性を持っている)その場で明らかにすることである.そのための手段として分子イメージングの果たす役割は大きく,イメージング技術を支えるPETや蛍光顕微鏡などの測定機器と共にプローブの存在が必要不可欠である.例えば,カルシウムイオンが生命にとって非常に重要な化学種であることを否定する人はいないであろう.カルシウムイオンの生理機能の解明にはカルシウムイオンを生細胞中あるいは生体組織から捉えるバイオイメージングプローブの存在は極めて大きく,現在でも多くの研究者により汎用されている.カルシウムイオンイメージングプローブがもし創製されなかったとしたら,カルシウムイオンの研究はこれほど進展しなかったと思われる.この例に見られるように,プローブは多くの生命科学研究者に求められている生体の機能探索分子である.重要な生理活性分子をカルシウムイオンと同じようにイメージングすることが出来れば,生命科学研究は一段と進展することは疑いない.では,このようなプローブを創製するために重要なことは何か?実用的な機能性プローブはランダムに蛍光化合物を合成しても生み出されることはない.蛍光特性を制御する原理が重要であり,新たな原理が見出されれば,その原理からいくつもの新たなバイオイメージングプローブが開発できる.本稿では原理を簡単に紹介し,それに基づいたプローブの分子設計法と合成,およびそれらを生細胞などに応用した実例を紹介する.
  • 影近 弘之
    2008 年 132 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    核内受容体は,ステロイドホルモンや活性型脂溶性ビタミンA,Dなどの生理作用を担う受容体であり,リガンド依存的転写因子として,特異的な遺伝子の発現を厳密に制御している.核内受容体とその特異的リガンドの機能は,がん,自己免疫疾患,生活習慣病の発症や治療と密接に関与していることから,これらを制御する小分子の創製とそれを用いたケミカルバイオロジー研究は,創薬への応用が期待され,活発に行われている.筆者らは,レチノイドの医薬化学研究を行い,all-trans-レチノイン酸(ATRA)をリード化合物として構造展開することにより,レチノイドの2種類の核内受容体RAR,RXRの特異的な合成アゴニスト,アンタゴニストを創製してきた.更に,核内受容体のリガンド結合部位の結晶構造をもとにバーチャルライブラリーや市販品データベースを用いたin silicoリガンド探索法により,ユニークな骨格を持つリガンドを種々見いだしてきた.一方,ホウ素クラスターであるカルボランを疎水性ファーマコフォアとして用いることにより,レチノイドだけでなく様々な核内受容体リガンドを創製した.これらのカルボラン含有核内受容体リガンドは核内受容体を分子標的とした中性子捕獲療法への応用も期待できる.以上の合成リガンドは核内受容体の新たな機能を解明するケミカルツールとして有用であるばかりでなく,合成レチノイドAm80が急性前骨髄球性白血病治療薬として認可され,実際に臨床の場で用いられるに至った.Am80を用いた基礎研究および動物実験から,レチノイドの新たな機能が発見され,それを元に,自己免疫疾患や血管病変等に対する新たなレチノイド療法が検討されている.
  • 吉田 稔
    2008 年 132 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    赤芽球性白血病細胞の分化誘導物質として再発見されたトリコスタチンA(TSA)の標的分子研究(ケミカルジェネティクス)により,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)がその標的であり,この酵素の阻害が細胞周期停止と分化誘導活性の原因であることが突き止められた.この発見は,のちのヒストンアセチル化によるエピジェネティック制御の解明とがん治療に道を開く第一歩となった.さらにHDAC阻害薬のケミカルバイオロジーによって,非ヒストンタンパク質の新たな機能が次々と明らかになってきた.
  • 萩原 正敏
    2008 年 132 巻 1 号 p. 22-25
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    タンパク質リン酸化酵素は多様な生体機能を調節する最重要なタンパク修飾反応で,これらの酵素に特異的な阻害薬は,複雑な生命現象を解明するためのツールとなるばかりでなく,抗癌薬等の臨床薬としても期待されている.タンパク質リン酸化酵素はいずれもATPを基質とすることから,ATP結合部位が低分子化合物の標的となり得るが,その立体構造の多様性を利用して様々な特異的阻害薬が合成されている.本稿では,タンパク質リン酸化酵素阻害薬開発の歴史を振り返るとともに,ケミカルバイオロジーの観点から,その将来像を俯瞰する.
  • 井本 正哉
    2008 年 132 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    2003年にヒトゲノムの全塩基配列解読終了により,生命科学研究はポストゲノム時代に突入した.そのような状況のなかで,小分子化合物を用いて生命現象を解析する「ケミカルバイオロジー」がポストゲノムの重要な研究領域としてその発展が期待されている.ケミカルバイオロジーを展開する上では,構造および生理活性に多様性を有する小分子化合物群の開発が重要である.さらにケミカルバイオロジー研究に有用な小分子化合物の中には疾患に関わる細胞内情報伝達経路に作用するものが含まれることから,疾患治療薬のリード化合物となることが期待でき,ゲノム創薬としての展開も十分可能である.このような小分子化合物の供給源として従来から天然化合物,特に微生物二次代謝産物が用いられてきた.その理由は微生物代謝産物が合成化合物とは異なり,構造中に多数のキラル中心や環構造の多様性からくる複雑かつリジットな立体を有しているからである.また合成化合物と微生物代謝産物それぞれに含まれるヘテロ原子数を比較すると,ハロゲンや硫黄原子には大差がないものの微生物代謝産物には酸素原子が多く含まれているという特徴を見出すことができる.このことは微生物代謝産物が,タンパク質との相互作用に重要な水素結合のdonor/acceptorになりうる官能基を多数有していることと関連しており,従ってタンパク質と相互作用しうる化合物の探索源としては微生物代謝産物に利があると考えられる.実際に,微生物二次代謝産物には様々な生理活性を有するものが多数報告されており,実際に過去20年間で認可された医薬品のうち,天然化合物およびそれをリードとした化合物はおよそ60%にものぼる.本稿では,微生物二次代謝産物から発見され,ケミカルバイオロジー研究の発展に貢献した化合物を紹介し,それらの疾患治療薬への展開についても概説する.
総 説
  • 鶴尾 隆
    2008 年 132 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    近年,個別化医療に向けてバイオマーカーを用いた薬剤の感受性や副作用との相関を調べるファーマコゲノミクス(PGx)研究が多くおこなわれており,一定の臨床上の有用性が示されたバイオマーカーが複数報告されている.PGxとは,このバイオマーカーを用いて患者個々の遺伝的特徴を把握し,個々の患者に最適な薬剤を選択し,最適な用法用量で投与することを目的の一つとしている.PGxに関する基盤整備が進んでいる海外と比較すると,日本の現状は遅れ気味と言わざるをえない状況であり,バイオマーカーを用いる診断法を日常診療のフローに組み込む体制を整えるには超えるべき課題が多い.JMCoEプログラム(Japan Molecular Center of Excellence)とは,全国の医療施設や受託検査センターなどを対象に遺伝子検査のネットワークを構築し,遺伝子検査の標準的な検査方法(アプリケーション)の開発,遺伝子マーカー検査の運用方法の標準化を推進する活動である.JMCoEプログラムは推進委員会(委員長:三重大学 登 勉 教授)によって運営されており,著者も委員の一人である.本プログラムの活動の一環として,2007年8月25日,遺伝子検査の標準化やPGxに関心のある多数の参加者(医療関係者,臨床検査センター,試薬メーカーなど)が集まり,「第1回JMCoEネットワーク学術フォーラム(JMCoEプログラム推進委員会およびロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の共催)」が開催された.本稿はその際のPGxに関するシンポジウム:「ファーマコゲノミクス(PGx)の普及における課題」の内容をまとめたものである.オンコロジー分野における抗がん薬治療に的を絞り,PGx普及における日本の現状や今後の課題について,基礎研究者と臨床医という異なる観点から二人の先生にお話しいただいたのち,その課題解決に向け討議した.
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 永江 祐輔, 都賀 稚香, 友尾 孝, 鈴木 栄子
    2008 年 132 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    血管は内皮細胞,平滑筋細胞,膠原線維,弾性線維からなる脈管である.内皮および平滑筋細胞は血管弛緩・収縮因子の産生や反応により血管緊張を調整していること,ならびに吸収された薬物に最初に曝される組織であることから,機能的・構造的に血管毒性の主要標的細胞である.薬物起因性の血管病変には動脈硬化,動脈瘤,血管炎,静脈血栓症および腫瘍があげられる.血管毒性が原因で医薬品が発売中止された事例は稀である一方で,血管障害の有効なバイオマーカーがないために,動物試験で血管毒性がみられた薬物の臨床開発を断念せざるを得ない場合が多い.末梢血中内皮前駆細胞(EPC)や内皮細胞(CEC)の計測は有望なバイオマーカーのひとつである.また,血管毒性の探索法として従来の病理組織学的手法に加え,摘出血管の収縮・弛緩能を測定する方法や超音波イメージングシステムを用い非観血的に血管形態や血行動態を観察・計測する方法があげられる.
新薬紹介総説
  • 小林 実, 渡邉 雅範, 中村 譲治
    2008 年 132 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    トピラマートはフルクトピラノース骨格にスルファマート構造を有する新規の抗てんかん薬である.2008年2月までに英国,米国をはじめとして,世界100ヵ国以上で承認されており,本邦では,トピナ®錠として2007年7月に承認を取得した.動物実験では,げっ歯類において最大電撃けいれん,扁桃核キンドリング発作および聴原性発作を抑制したが,ペンチレンテトラゾールけいれんに対してはほとんど抑制作用を示さなかったことから,主に発作波の伝播を抑制するタイプの薬剤であると考えられる.また,作用メカニズムとして,(1)電位依存性ナトリウムチャネル抑制作用,(2)電位依存性L型カルシウムチャネル抑制作用,(3)AMPA/カイニン酸型グルタミン酸受容体機能抑制作用,(4)GABA存在下におけるGABAA受容体機能増強作用および(5)炭酸脱水酵素阻害作用が考えられており,グルタミン酸による興奮性伝達とGABAによる抑制性伝達を同時に調節し得ることが,トピラマートの特徴と考えられる.本邦の臨床試験では,第III相比較試験として,既存の抗てんかん薬で十分な発作抑制効果が得られない部分てんかん患者を対象に,フェニトイン,カルバマゼピンなどの基礎治療薬にトピラマートを付加投与した際の有効性および安全性をプラセボ対照の二重盲検比較試験で評価した.その結果,主要評価項目のてんかん発作発現頻度減少率(中央値)は,プラセボ群の13.70%に対し,トピラマート群が33.40%であり有意(P=0.006)に優る結果であった.一方,副作用は,これまでの国内外における臨床試験,および海外における市販後の副作用報告で得られた既知の事象が多いこと,またその多くは,傾眠,めまいなどの中枢神経系のものであり,その程度は軽度または中等度のものがほとんどであったことから比較的安全性も高いと考えられた.これらの成績から,トピラマートは,本邦においても部分てんかん患者に対する有用な治療薬の一つになるものと考える.
  • 津田 敏彦, 今田 和則, 水口 清
    2008 年 132 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    イミキモド・クリーム剤(販売名:ベセルナクリーム5 %)は,米国の3M Companyで開発された外用剤で,本邦初の尖圭コンジローマ治療薬である.イミキモドは,細菌やウイルスの構成成分を認識し免疫応答を賦活化するトール様受容体(TLR)のひとつであるTLR7に対してアゴニスト活性を示す.イミキモドは,直接的にはウイルスの増殖抑制作用を示さないが,単球あるいは樹状細胞に発現するTLR7に作用してIFN-α,TNF-αおよびIL-12などのサイトカイン産生を促進し,主としてIFN-αの作用によりウイルスの増殖を抑制する.また,イミキモドにより産生が促進されるIFN-α,TNF-αおよびIL-12などのサイトカインはT細胞を活性化し,活性化T細胞から産生されるIFN-γなどのサイトカインを介して細胞性免疫応答を賦活化する.尖圭コンジローマ患者を対象とした臨床薬理試験において,イミキモド5 %クリームの塗布により疣贅部位のヒトパピローマウイルス-DNA量の減少,IFN-α,TNF-α,IFN-γおよびIL-12のp40サブユニットの各mRNA量の増加が認められた.以上から,イミキモド5 %クリームは塗布部位において各種サイトカインの産生を促進し,ウイルス増殖の抑制および細胞性免疫応答の賦活化によるウイルス感染細胞傷害作用により,疣贅を消失させると考えられる.国内および海外で実施された尖圭コンジローマ患者を対象とした臨床試験において,イミキモド5 %クリームの1日1回,週3日,最大16週間塗布により疣贅の消失あるいは縮小が認められた.本邦では,これまで尖圭コンジローマの治療には外科的療法が用いられてきたが,イミキモド・クリーム剤は外科的療法と比較して侵襲が少なく,有用な治療薬として期待される.
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