2019 年 153 巻 3 号 p. 117-123
一次繊毛は細胞膜が突出して形成される不動性の繊毛で,一細胞につき一本のみ形成される.当初は細胞外に突出しているだけの静的な細胞小器官だと思われていたが,種々の研究成果により,細胞周期に依存して形成と短縮・消失を繰り返すダイナミックな性質をもつことが明らかとなってきた.一次繊毛は非常に短く表面積も小さいにもかかわらず,一次繊毛膜上には特異的に分布するGタンパク質共役型受容体,増殖因子受容体やイオンチャネルがあるため,選択的な生理活性物質や機械刺激を受容するシグナル受容器として働く.そのため,一次繊毛の形成異常や機能破綻は,小頭症,嚢胞腎,内臓逆位や多指症に代表される種々の臓器形成不全等を所見とする,先天性の遺伝子疾患「繊毛病」の発症につながる.繊毛病に対する有効な治療法は開発されていない.近年,一次繊毛の形成や機能の分子制御機構が解明されるにつれて,多種多様の分子が巧妙な機構によって一次繊毛の形成,シグナル伝達や短縮・消失のサイクルを制御することが明らかになり,一次繊毛の特殊性と重要性が理解されてきた.しかし,それら分子制御機構の全容解明には遠く及ばないのが現状である.繊毛病の病因解明のため,分子制御機構がさらに解明されることが必要であり,また将来,有効な治療法が薬理学研究を中心として開発されることが期待される.