日本薬理学雑誌
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受賞講演総説
脳神経回路の傷害と修復を司る生体システムの解明
村松 里衣子
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2019 年 154 巻 6 号 p. 340-344

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抄録

脳神経疾患に罹患すると,病巣が形成された部位に応じて,脳のみならず全身に様々な症状があらわれる.症状の発症や悪化のメカニズムの一つに,疾患に罹患した脳で神経回路が傷害されることが指摘されている.従来から,成体の脳の神経回路は自然に修復することはないと信じられていたため,脳神経疾患による症状の緩和を目指した研究は,いかにして傷害から神経回路を守るかという脳保護が研究対象の主流であった.またそして,成体の神経回路がなぜ自然に修復しないか,特に成体の脳の環境に備わる修復阻害メカニズムの解明も進められていた.ところが,個体発生時や末梢神経系と比較するとわずかではあるが,しかし有意に,成体の脳の神経回路も自然に修復することがわかってきたため,その修復様式に関する解剖学的な知見が集積され,修復過程では非常にダイナミックな神経回路の再編成が生じていることが示されてきた.さらにそれを担う分子的な研究も進められ,病巣における旺盛な免疫系・血管系の変容とそれに伴う発現変動する分子群が,神経系細胞に作用して,神経回路の修復を導くことも示唆されてきた.このような研究で注目された細胞・分子は脳の内部に存在するものが多かったが,最近になり,脳の外部環境に備わる分子群が脳神経系に与える作用にも注目が集まっている.神経回路の修復に関しても,全身状態の変化を反映する血中ホルモンとの関連について研究が進み,脳の神経回路の修復が様々なレベルで制御されるものであることが報告されてきた.本総説では,神経回路の傷害と修復に関する最近の知見を,著者らの報告を中心に紹介したい.

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