上部消化管領域のESDでは,糸付きクリップ法による外科医の左手のようなトラクションが簡便に応用できる.しかし,従来の糸付きクリップ法は装着するために内視鏡の抜去が必要であり,大腸ESDではあまり普及していなかった.そこでわれわれは,内視鏡の抜去が必要ないトラクション補助下大腸ESD(TAC-ESD)を考案した.TAC-ESDは3-0ポリエステル糸とクリップのみで実施でき,大腸ESDにおいても十分なトラクションが得られ,粘膜下層を良好に視認できる.さらにTAC-ESDでは,多くの症例で糸付きクリップ装着直後に全周切開し肛門側から剥離するため,治療ストラテジーが単純になる.また,困難部位・困難症例の治療もTAC-ESDに少しの工夫を加えることで,安全に実施できる.TAC-ESDは標準的な症例にも,困難な症例にも有効なトラクション法である.