2024 年 66 巻 1 号 p. 78-88
【目的】消化管早期癌に対する治療として内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は広く浸透している.しかし大腸ESDは未だ難しい手技である.トラクションを使用した大腸ESDが有用であると報告があるが,いずれも症例数が少なく単施設での研究であり有用性を示すには不十分なエビデンスしかなかった.われわれは,大腸ESDにおけるトラクション法の有用性と安全性を検討する多施設前向き研究を行った.
【方法】われわれは,前向き,多施設共同,無作為化割り付け,2群間比較試験を日本における10施設で行った.従来法ESD群(C-ESD),トラクションESD群(T-ESD)を1:1に割り付けた.主要評価項目は,内視鏡治療時間とした.
【結果】2020年4月から2021年8月までの間にC-ESD群128名,T-ESD群123名を研究対象とした.C-ESDとT-ESDにおける治療時間の中央値は,それぞれ61(40-100)分,53(40-76)分(p=0.18)で両群に統計学的な有意差は認めなかった.副次解析で行った病変径≧30mmにおけるC-ESDとT-ESDにおける治療時間はそれぞれ,89(57-80)分,69(50-104)分(p=0.05),非熟練医における治療時間は81(62-120)分,64(52-109)分(p=0.07)であった.
【結語】大腸ESDにおいてトラクション法は治療時間の短縮には寄与しなかった.しかしながら,腫瘍径が大きい場合や非熟練医が行う場合は有用である可能性がある.