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炭酸カルシウム(CaCO3)で形成される魚類の耳石の酸素安定同位体比(d18O)は生息環境の水温を反映し,日周輪を形成しながら日々のd18Oを記録するため,経験水温の推定や回遊履歴の解明へ向けた活用が期待されている.近年では,微小領域切削装置(Geomill326)と微量炭酸塩安定同位体比質量分析(MICAL3c)の融合により,従来の数十倍の高時間分解能で耳石d18O分析が可能になり,各魚種への応用が始まっている.マアジ(Trachurus japonicus)は,稚魚期の耳石成長が早く,その日周輪幅が他魚種よりも広いという特徴があるため,世界初の「魚類の1日単位でのd18O(=経験水温)履歴の抽出」が実現できる可能性がある.本研究では,対馬海峡の東西で漁獲されたマアジの耳石を分析対象とし,①耳石の日々のd18O履歴抽出を実現するために分析技術の高度化を目指しつつ,②対馬海峡東西の個体のd18Oを比較し,経験水温の特性解明と初期成長の違いの要因推定を試みた.