ルビーは、日本の市場で人気の高い色石の1つである。中でもミャンマー産のルビーは人気が高く、日本で流通しているルビーの多くは、加熱処理によって美しい赤色を呈するMong-Hsu鉱山のものである。
しかし、最近では、加熱処理技術が向上し、条件や添加物を変えることにより、様々な産地のコランダムから理想的な色相のルビーを作り出すことが可能になってきた。これらの処理は、時として宝石の希少性を大きく左右し、本来の価値を曖昧にするだけでなく、処理条件が一般的に非公開の場合が多いことから、取引の現場における不安要素となってきている。
そのため、最近では、研磨のみが施された非加熱のルビーを求める声も多くなり、ルビーの売買において、加熱処理が施されているかどうかの判断が必須となってきている。
各鑑別機関では、紫外/可視および赤外領域の分光分析やレーザートモグラフィ等の高度な分析機器による分析結果とともに、ルビーの非加熱・加熱の判断を行っているが、現場では、内部特徴の観察のみが、唯一の判断材料となっている。
ミャンマー産のルビーにおいては、これまで変質していないシルクインクルージョンの存在が、非加熱の証とされていたが、最近では、1000°C以下での低温加熱も行われるようになり、シルクインクルージョンだけでは、判断材料として不十分になってきた。
そこで、今回、ミャンマーのMogok鉱山から入手したルビー原石を用いて、内包されるインクルージョンの種類と、低温加熱後の変化について調査したので、その結果について報告する。
まず、インクルージョンが観察しやすいように、ルビー原石を3mm厚の板状にカットし、それぞれのルビー中に内包されるインクルージョンを観察、顕微ラマン分光分析による同定を行った。その後、ルビーを3つのグループに分け、それぞれ、500°C、750°Cおよび1000°Cで加熱処理を行った。加熱後、それぞれのルビー中のインクルージョンの変化を観察した。