人間生活文化研究
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なぜ〈中国の戦線〉を問うのか
―日本における戦争記憶の現在形―
五味渕 典嗣
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2015 年 2015 巻 25 号 p. 353-360

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抄録

 戦後日本の文学,思想,映画,サブカルチャーなどの諸テクストに関心を寄せる者なら,それらのテクストに第二次世界大戦の巨大な影がしばしば見て取れることはすぐにわかる.〈先の大戦〉にかかる言葉やイメージは,日本語の言説の中に巨大なアーカイブを構成してきた.しかし,そのアーカイブは明らかな偏りを抱えている.奇妙なことに〈先の戦争〉をめぐる日本社会の集合的記憶は,アジアで戦われた戦争,とりわけ8年間に及んだ中国大陸での戦争をほとんど欠落させているのである.

 20世紀の日中戦争は,確かに過去の戦争である.だがそれは,敗戦後の日本社会がその記憶を十分に社会化・公共化してこなかった戦争でもある.東アジアの国際的な環境が1990年代以降最悪の状態にあると見える現在,日本語による戦争記憶のアーカイブを振り返り,現在の立場からその経験の語りと表象を問い直すことは,喫緊の重要性をはらんでいる.

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© 2015 大妻女子大学人間生活文化研究所
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