保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
特集 東日本大震災と砂浜海岸エコトーン植生:津波による攪乱とその後の回復
津波を受けた海岸林における環境不均質性と植物の種多様性(<特集>東日本大震災と砂浜海岸エコトーン植生 : 津波による攪乱とその後の回復)
遠座 なつみ石田 糸絵富田 瑞樹原 慶太郎平吹 喜彦西廣 淳
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2014 年 19 巻 2 号 p. 177-188

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抄録
津波による攪乱を受けた海岸林の管理方針の検討に資することを目的として、東北地方太平洋沖地震による津波から2年が経過した仙台市内の海岸林において、維管束植物の種多様性と環境条件の空間的パターンを分析した。約60.5haの調査地内は津波以前の環境条件と津波による攪乱の強度の違いに応じて、1)津波前の高木が残存している高木林(残存高木林)、2)津波前の高木林のほとんどが倒木した高木林(攪乱高木林)、3)津波前の低木林のほとんどが倒木した低木林(攪乱低木林)、4)津波以前から存在した後背湿地(後背湿地)の4通りのパッチタイプが認められた。これらのパッチタイプ間では種組成の差異が顕著であり、残存高木林では木本種が多く、攪乱低木林では海岸生草本種が多い特徴が認められた。津波以前には均質な状態であったと考えられる残存高木林と攪乱高木林の間でも種組成は大きく異なり、これらのパッチタイプで確認された92種のうち65.2%がどちらか一方のパッチタイプに固有であった。全国あるいは県のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているイヌセンブリ、タコノアシ、オミナエシ、カワラナデシコの分布を調査したところ、これらの種のすべての個体が攪乱高木林内でのみ確認された。1m×10mのコドラートあたりの種数に影響する環境要因を分析した結果、コドラート内の凹凸の程度(地盤がもっとも高い点と低い点の標高差)による有意な正の効果が認められた。コドラート内の顕著な標高差は、主に倒木に伴う根返りで生成されていた。津波による攪乱は、植生パッチ間の種組成の違いすなわちβ多様性を高めると同時に、局所的な種多様性すなわちα多様性が高い場所の創出に寄与したことが示唆された。
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© 2014 一般社団法人 日本生態学会

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