保全生態学研究
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Print ISSN : 1342-4327
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天然記念物「女満別湿生植物群落」指定の経緯
冨士田 裕子倉 博子
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2022 年 27 巻 2 号 p. 305-

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抄録

北海道東部網走湖の南東部湖畔には樹高 30 mにも達するハンノキとヤチダモを主体とする湿性林が帯状に分布しており、そのうち長さ約 2 km、面積約 56 haの範囲は、 1972年 6月に国の天然記念物「女満別湿生植物群落」に指定されている。北海道の低地に広範囲に分布していた湿性落葉広葉樹林は、開拓の進展とともに消失し、原生の景観を残す林分はほとんど残っていない。天然記念物指定により女満別湿生植物群落が残ったことは、学術的にも北海道の自然景観を保存するという点においても非常に価値が高い。本報では学術的に重要な林が今日まで保護されるに至った天然記念物指定の経緯を、文献探索や聞き取り調査などから明らかにした。調査により、第二次世界大戦前よりこの林の価値を認め、網走湖畔の湿性林に関する 2本の学術論文を 1960年代に執筆した植物生態学研究者の舘脇操博士が、戦後、土地所有者である営林局や国鉄にも働きかけ、指定にむけ尽力したことが明らかとなった。その結果、 1972年にこの湿性林は天然記念物指定に至った。本件は、研究者らの協力と努力が天然記念物指定として結実し、自然の保護に貢献した好例といえる。近年、新たな天然記念物の指定件数が 1972年当時と比較して減少しているが、天然記念物制度の積極的な活用が望まれる。

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