2019 年 67 巻 3 号 p. 1091-1095
O. H. Pindにより既に指摘されているように,Kaccāyanasuttaniddesa (15世紀)はKacc 1がブッダの言葉に他ならず,Kaccに対する「序文」(pubbavākya)とする解釈を示す.本研究では,Pindが用いなかった他のKacc注釈文献を用い,この「序文」説の変化を辿る.「序文」説が最初に見られるのはMukhamattadīpanī(10–11世紀)であるが,同書ではKacc 1を「序文」とする解釈は異説とされ,また,「序文」も,特にブッダに帰せられている訳ではない.Mukhamattadīpanīporāṇaṭīkā(12世紀)においても同様である.Kaccāyanasuttaniddesaは,従来異説とされた「序文」説を採用しKacc 1をsuttaではなく「文」(vākya)とし,Kacc 1をsutta群本体から外部化している.同書はさらにKacc 1をブッダが語ったものであるとする枠物語の構成をKaccに付与する.また,この枠物語で用いられている説話は,上座部の伝統に基づくものではなく,『根本説一切有部毘奈耶雜事』に由来するものであると指摘されている.Kaccāyanasuttavaṇṇanā(16世紀)はKacc 1をsuttaの一つとする立場に回帰するものの,Kacc 1をブッダの言葉とする点では上記の立場を継承し,異なるヴァージョンの枠物語を記述する.