日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
頸髄損傷者が経験する社会とのかかわりにおいてもたらされる苦しみと共生を目指す過程に関する検討
井出(大河内) 彩子藤村 一美
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2013 年 15 巻 3 号 p. 12-22

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抄録
目的:頸髄損傷者の経験する社会とのかかわりにおいて生じる苦しみと頸髄損傷者が共生を目指す過程を明らかにする.方法:1府2県に居住する外傷性頸髄損傷者29人を研究参加者として,2009年4〜8月に半構造化面接を参加者の自宅で行った.逐語録からグラウンデッドセオリーに基づきカテゴリーを作成した.結果:参加者は社会とかかわるなかで《内在化する健常者主体の社会規範との葛藤》と《他者との交流において生じる苦しみ》を経験し,《社会規範に沿った「できる」の回復》《内在化する社会規範に対する客観視》《障害という見いだされた価値の社会に対する問いかけ》という共生の過程を経験していた.また,健常者としての価値観を有するために「自分でできる」という社会規範を遵守できない苦しみや,他者からの身体障害者に対する差別的な対応による苦しみを経験していた.参加者は健常者主体の社会が期待する能力を発揮することで社会から承認されようとしているが,障がい者の自分が健常者の価値観に支配されていることに気づき,否定されがちな障害のもつ価値を社会に訴えている参加者も存在した.結論:健常者志向の強い参加者の障がい者としてのアイデンティティ構築を助ける,障害の肯定的側面に気づいてもらうための個別支援と,能力主義のみに基づかない包括的な価値観を社会がもつことを助ける地域づくりが,必要と思われた.
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© 2013 一般社団法人 日本地域看護学会
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