日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
15 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 田髙 悦子, 河野 あゆみ, 国井 由生子, 岡本 双美子, 山本 則子
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 4-11
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:大都市の一人暮らし男性高齢者の社会的孤立にかかわる課題について,高齢者の強み,弱みならびに地域性の観点から記述することである.方法:研究対象は大都市圏の市街地高層住宅地域及び市街地近郊田園地域の一人暮らし男性高齢者20人(Primary Informant;PI)および保健医療福祉専門家等14人(Key Informant;KI)である.研究デザインは質的帰納的研究であり,半構成的インタビューによりデータ収集,分析した.結果:PIの平均年齢は79.5歳,平均独居期間は8.4年,KIの平均実務経験は10.8年であった.分析の結果,大都市の一人暮らしの男性高齢者の社会的孤立にかかわる強みのテーマとして「自律性」,弱みのテーマとして「孤独感」,地域性のテーマとして「近隣との関係性と慣習」が抽出された.うち,「近隣との関係性と慣習」については,市街地高層住宅地域では<地縁・血縁は乏しく互いに適度の距離を保つ>等がみられたのに対し,市街地近郊田園地域では<地縁・血縁に基づく根強い関係をもつ>等の差異がみられた.結論:大都市の一人暮らし男性高齢者における社会的孤立の予防に向けては,高齢者個人の自律性,孤独感ならびに地域における近隣との関係性と慣習を勘案し,一人暮らし高齢者個人と近隣住民および地域が社会的孤立を予防できる力量を互いに高められるような地域づくりが必要である.
  • 井出(大河内) 彩子, 藤村 一美
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 12-22
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:頸髄損傷者の経験する社会とのかかわりにおいて生じる苦しみと頸髄損傷者が共生を目指す過程を明らかにする.方法:1府2県に居住する外傷性頸髄損傷者29人を研究参加者として,2009年4〜8月に半構造化面接を参加者の自宅で行った.逐語録からグラウンデッドセオリーに基づきカテゴリーを作成した.結果:参加者は社会とかかわるなかで《内在化する健常者主体の社会規範との葛藤》と《他者との交流において生じる苦しみ》を経験し,《社会規範に沿った「できる」の回復》《内在化する社会規範に対する客観視》《障害という見いだされた価値の社会に対する問いかけ》という共生の過程を経験していた.また,健常者としての価値観を有するために「自分でできる」という社会規範を遵守できない苦しみや,他者からの身体障害者に対する差別的な対応による苦しみを経験していた.参加者は健常者主体の社会が期待する能力を発揮することで社会から承認されようとしているが,障がい者の自分が健常者の価値観に支配されていることに気づき,否定されがちな障害のもつ価値を社会に訴えている参加者も存在した.結論:健常者志向の強い参加者の障がい者としてのアイデンティティ構築を助ける,障害の肯定的側面に気づいてもらうための個別支援と,能力主義のみに基づかない包括的な価値観を社会がもつことを助ける地域づくりが,必要と思われた.
  • 秋葉 理江, 田口(袴田 )理恵, 河原 智江, 今松 友紀, 糸井 和佳, 臺 有桂, 田髙 悦子
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 23-31
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,出産当初,近隣住民とのつながりがなく孤独感を抱えて育児を行っていた母親の,育児ならびに人とのつながりの状況と,母親の感情や考えがどのように変化しながら近隣住民とのつながりを築いていったか,という過程を明らかにすることを目的とした.方法:対象者は,地域子育て支援拠点を利用する,3歳未満の第1子を育児中の母親8人である.半構成的インタビューにて,産直後から現在までの,育児の状況,人とのつながりの状況,感情・考えについて質問し,得られたデータを質的帰納的に分析した.結果:つながりを築く過程は4つの段階から構成された.最初は【育児の苦痛と社会からの隔絶による母親自身の存在価値の喪失】の段階にあったが,産後3〜4か月ごろに【社会とのつながりへの希求と母親仲間への関心の高まり】の段階に移行した.さらに,近隣の母親仲間を得ることにより【母親仲間による世界の広がりと本当の友人への希求】の段階に入り,やがて【本当の友人による心の安定と人とのつながりに対する意識の広がり】の段階に至ることが明らかとなった.考察:出産当初近隣とのつながりのなかった母親が地域における人とのつながりを築いていく過程は,家族や昔からの友人を重視する考えから,子どもを育てていく生活の場としての近隣とのつながりを重視する考えへと,大きな価値観の転換を伴うものであることが示された.
  • 坪井 りえ, 飯田 苗恵, 大澤 真奈美, 原 美弥子, 齋藤 基
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 32-40
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:市町村の福祉部門において精神障害者の個別援助活動に携わる保健師のジレンマについて,ジレンマを構成する要素を見いだし,諸要素間の関係性を明らかにすることを目的とする.方法:A県内の市町村の福祉部門において,精神障害者の個別援助活動を行った経験が1年以上ある保健師12人を対象とした.質問内容として,(1)ジレンマの経験の有無,(2)ジレンマの経験の具体的な場面,(3)(2)の場面におけるジレンマの内容と最終的な判断について半構造化面接を行い,KJ法を用いて質的に分析した.結果:ジレンマを構成する要素は,【対象者の"人生にかかわる"人の1人になる】という対象者にかかわる意義の認識【"正解"のない道を行く】迷いや自信のなさ,【目の前の"現実"が仕事になる】という職業的アイデンティティの揺らぎであり,3つの要素間の矛盾する関係性からジレンマが生じていた.考察:保健師のジレンマは,精神障害者にかかわる保健師の姿勢と,福祉部門における援助活動や業務の実態が矛盾することから生じていた.ジレンマを乗り越えるためには,対象者にかかわる意義の認識を高め,福祉部門における職業的アイデンティティを確立するためのサポートや教育的支援が重要である.
  • 中山 かおり, 佐々木 明子, 田沼 寮子, 森田 久美子
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 41-50
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:就園前の発達障害の特徴をもつ子どもの保護者のための個別育児支援プログラムを試行して,プログラムへの参加による保護者の子どもへのかかわり方の変化を明らかにし,プログラムの有効性を検討することを目的とする.方法:12組の就園前の発達障害の特徴をもつ子どもとその保護者を対象に,週1回,全8回のプログラムを提供した.プログラム終了後に,保護者に対してインタビュー調査を実施した.結果:プログラム参加者の子どもの平均月齢は37.9±7.2か月であった.プログラムへの参加による参加者の子どもへのかかわり方の変化では,〔子どもとしっかり遊ぶ〕〔子どもをほめる〕〔子どもの言動をまねる〕といった,【育児行動の変化】がみられた.また,〔育児への自信をもつ〕〔育児を楽しむ〕〔育児へのストレスが軽減する〕〔子どもを愛しく思う〕といった,【育児感情の変化】がみられた.考察:プログラムの有効性として,【育児行動の変化】からは,肯定的な育児方法の獲得,子どもの特徴に合わせた育児方法の獲得,子どもとかかわる方法の獲得の可能性が考えられた.【育児感情の変化】からは,育児自己効力感の高まり,育児ストレスの軽減,子どもへの愛情の深まりに有効である可能性が考えられた.
  • 星田 ゆかり, 岡本 玲子
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 51-62
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,保健師の施策化における説明力の向上を狙った学習成果創出型プログラムを用いた研修を行い,その効果を検証することである.方法:対象はA保健所管轄内自治体の中堅期保健師全11人である.効果のアウトカム評価は,学習プログラムの実施前後に3つの評価表を用いて測定した.プロセス評価は,学習に用いたワークシートと研修中の逐語録のデータから変化過程における必須通過点の通過を確認した.結果:「活動の必要性と成果をみせる能力振り返りシート」では全参加者が39項目中5項目以上で上昇し,1人平均12.6項目上昇した.「保健師の専門性発展力尺度」では全体および「専門性の伝承と発展」「活動原則の励行」「自己責任の能力開発」で有意に上昇した.「保健師の専門職務遂行能力の自己評価」では全体および「地域支援及び管理能力」で有意に上昇した.さらに,「活動の必要性と成果をみせる能力」向上を目指した3人と「専門性の確立」を目指した8人が必須通過点「学習計画を立て,実践を行う」に到達した.また,参加者全員が施策化における説明力を自分に必要な能力であると認識した.考察:本プログラムの実施は自治体保健師の施策化における説明力向上に効果があることが確認され,今後,このプログラムの自治体での現任教育への適用可能性が示唆された.
  • 山辺 智子, 田髙 悦子, 臺 有桂, 河原 智江, 田口(袴田) 理恵, 今松 友紀
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 63-69
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:安全を推進するセーフティプロモーションは,健康を推進するヘルスプロモーションとともに地域看護において根幹をなす重要な概念である.しかしながらセーフティプロモーションに関する研究はまだ少ない.そこで本研究では,地域における事故や傷害の予防が課題である,都市部児童の視点による安心安全の構成要素を明らかにすることが目的である.方法:研究対象は,A市b区地域の公立小学校2校に所属する小学5年生の児童8人であり,研究方法はフォーカスグループインタビューによる質的研究である.結果:児童における安心安全の構成要素は,25サブカテゴリー,5カテゴリー,すなわち[いざというときに自分で身を守る行動]や[自分の命や人の命の大事さ]等からなる【児童の意識と価値観】,[危険な目に合わないための約束ごと]等からなる【児童と家族の規範】,[遊びや遊具使用中の不注意]等からなる【児童の遊具や道具】,[通学路での危険]等からなる【学校における集団生活と学習】,[顔のみえる関係][地域の人と学校の結びつき]等からなる【見守りのある地域】が抽出された.結論:児童の視点による安心安全の要素を勘案し,具体的なセーフティプロモーションの推進によって都市部におけるセーフコミュニティの実現へと発展させることが課題である.
  • 片平 伸子, 藤川 あや, 本田 亜起子, 上野 まり, 北岡 英子, 渡部 月子, 廣川 聖子
    原稿種別: 本文
    2013 年15 巻3 号 p. 70-77
    発行日: 2013/03/31
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:認知症高齢者グループホーム(以下,GH)と契約して利用者の健康管理を行っている訪問看護ステーション(以下,ST)からみた,GHとSTの連携の効果および課題を明らかにすることを目的に調査を行った.方法:医療連携体制加算を算定したGHと契約している2県のST管理者10人を対象として,インタビューガイドを用いた半構成的面接調査を行う.結果:STの管理者がとらえたGH-ST間の連携の効果としては,【GHの医療面への対応の機能が強化される】【利用者の受診の回数が減らせる】【利用者が適切な治療を受けられる】【介護職員の力量が向上する】【介護職員が安心・満足を得られる】【訪問看護師の力量の向上につながる】の6カテゴリーが抽出された.STの管理者がとらえたGH-ST間の連携の課題としては,【業務量に採算が伴わない】【GHとの契約がSTの業務に影響する】【介護職員の力量に課題がある】【情報共有に課題がある】【算定されるSTの活動が明らかでない】【STの活動評価がない】【GHでの看取りはむずかしい】【GHへの要望はない】の8カテゴリーが抽出された.考察:GH,ST双方に連携による効果があると考えられている一方,採算性の低さを含めて負担を感じているSTがあることが示された.
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