日本地震工学会論文集
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論文
統計的グリーン関数法を用いた広帯域強震動計算における中間周波数帯の振幅の落ち込みの原因と改善法
久田 嘉章
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2020 年 20 巻 7 号 p. 7_46-7_68

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抄録

小地震から大地震の波形合成を行う経験的・統計的グリーン関数法を用いて広帯域強震動計算を行う際,目標とする理論的なω-2モデルと比較すると,一般に大地震の震源スペクトルの振幅は中間周波数帯で大きな落ち込みが生じる場合がある.本論文は小地震として理論的なω-2モデルを用いる統計的グリーン関数法を用いて,振幅スペクトルの落ち込みを4つの要因に分類し,その原因と改善法を理論的に考察した.4つの要因は,(a) F関数(小地震から大地震の要素地震のmoment rate関数への変換関数)による中間周波数帯での振幅の落ち込み,(b) 低周波数と高周波数で異なる位相スペクトルを用いた波形を重ねることによる接続周波数帯での振幅の落ち込み,(c) 大地震の断層分割数(相似比Nの2乗個)の増大によりω-2モデルからω-3モデルに漸近することによる中間周波数帯での振幅の落ち込み,および,(d) 大地震の断層面上の要素地震を重ね合わせる際,低周波数でのNの2乗倍から,高周波数でのN倍の振幅に移行する遷移周波数帯での落ち込み,である.(a)と(c)は従来から知られている「中間周波数帯」での振幅の落ち込みであるのに対し,(b)と(c)は異なる視点から振幅の落ち込みを考察しており,本論文ではそれぞれ「接続周波数帯」と「遷移周波数帯」と呼ぶ.各要因の振幅落ち込みの原因と改善法に関して,まず(a)に関しては指数関数型のF関数を用いること,次に(b)に関しては振幅スペクトルの補正を行うこと,がそれぞれ有効であることを確認した.一方,(c)に関しては,既存の研究から相似比Nの増大により破壊伝播が滑らかになることで振幅が低減することが知られているが,振幅の落ち込みはNが小さくても発生し,それが要素地震の破壊開始時間間隔に相当する卓越周波数よりも低周波数で必ず落ち込みが生じることを示した.最後に,その原因として(d)では,低周波数での要素地震のコヒーレントな重ね合わせから,高周波数でのランダムな重ね合わせに至る遷移周波数帯で振幅がNの2乗倍からN倍に落ち込むことを理論的に明らかにし,振幅の落ち込みは要素地震の破壊開始時間の関数項に起因することを示した.最後に,振幅落ち込みの実用的な改善法として,理論的なω-2モデルによる振幅補正を行う手法を提案し,統計的グリーン関数法による強震動計算から,補正を行わない場合は中間周波数帯の振幅を著しく過小評価することを明らかにした.

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