抄録
症例は50歳男性, 2トントラックを運転中, 軽自動車と接触後に電柱へ激突した. 運転席のシートとハンドルの間に挟まれた状態で救助され, 当院救急外来に搬送された. 腹部造影CTを施行したところ, 肝表面に低吸収域を認めた. 膀胱からの造影剤の漏出は認められなかった. また, GOT, GPTの有意な上昇は認められなかったものの, この時点で膀胱破裂は念頭になく, 肝挫傷を疑い入院とした. 入院後数時間して, 尿意はあるものの排尿困難をきたしたため, フォーリーカテーテルを留置した. 排尿はあったが凝血塊を伴う血尿を認めた. 翌日に腹部CTを再検したところ, freeairを認め, 消化管穿孔を疑い, 同日緊急開腹術を行った. 術中, 穿孔を思わせる消化管の損傷部位は同定できなかったが, 膀胱頂部に約7cmにも及ぶ膀胱壁の裂創が認められた. 破裂部の縫縮術を施行, 術後は経過良好で, 32日目に退院となった. 腹部の鈍的外傷では腹腔内膀胱破裂も念頭に置き, 診断を進めることが肝要である. また, 血清BUN, Crレベルの上昇は, 膀胱破裂の診断に有用であると考えられた.