乾燥地における熱は,人間生活を様々な側面において規定してきたと同時に,これに対応する知や実践を生み出し,各地で独自の発展を遂げている.こうした知や実践を解き明かすためには,文理融合の研究を発展させる必要があり,両者の歩み寄りが必要である.本稿は,その一端を担うべく,乾燥地に位置する中東地域の熱をめぐる研究概観を踏まえ,同地域における熱の起源と多元性について,イスラーム文明の発展とともに花開いたアラビア科学の知の体系を紐解きながら明らかにした.熱の語源を紐解くと,自然科学とこれを応用する学問分野である医学や物理学に端を発しており,アラビア語においては解放や自由の意味を持つ語や,神による定めや運命の布告としての意味派生も見られた.これは,熱がもたらす避け難い変容や必然的な消滅が関連して創出されたと考えられる.また,アラビア医学では,人間の備える要素を熱に対応するものとして考え,熱の消滅を人間の死と捉えるなど,イスラームを思想的支柱にしながら熱理解が進んでいた.現代では,熱に関する知や実践の表出として,内戦や紛争に伴い発生した難民の避難先としての難民キャンプが,乾燥地である中東地域の「系」に従いつつも,現代の技術革新の中で提供される住環境整備と援助によって支えられていることを指摘した.