抄録
安達太良火山形成史は,藤縄他(2001)により3分され,その第3期,最近約25万年間は専らカルクアルカリ安山岩(一部デイサイト)マグマを噴出したとされる.今回,噴出物再区分と層序検討をし,地質学的近縁性からグループにまとめた.グループ毎,全岩組成上の類似性を整理し,マグマ供給系の変遷を考察した.
地形分類,岩相・岩質から, 37噴出物に区分,下記の7グループ(以下,Gと略す)にまとめた.テフラ層序と岩石放射年代から,東中腹部第1・箕輪山Gが25-20万年前(3-1期),山頂部Gの活動が12万年前(3-2期)に対比, 10∼3万年前頃に沼の平南縁・北縁部Gが形成された(3-3期)と解される.東中腹部第2Gは3-1期後期以降,沼尻Gは3-2期頃の活動開始が推定される.
噴出時期と組成特性から,以下のように4分できる.
3-1期a:東中腹部第1・第2Gは,FeO*/MgO=2.2∼2.7,TiO2,FeO*,P2O5に富み,MgO,K2Oに乏しい. Rb, Ba, Zrに乏しくYに富み,低SiO2域でSc, V, Co量が高い.Rb/Ba,Nb/Zr,Rb/Zrは各々約0.12, 0.04, 0.25∼0.3を示す.
3-1期b:箕輪山Gは,FeO*/MgO= 2.0∼2.5,Al2O3に富み,CaO,K2Oに乏しい. Sr, Nb, Sc, Vで独自の傾向を示す一方,液相濃集元素比は3-1期aと類似する.
3-2期:山頂部Gは組成が分散し,明確な傾向を示さない.これは安達太良第2降下火砕物中の,3種本質物質共存が象徴的である.
3-3期:沼の平南縁部・北縁部Gは,3-1期aGと対照的にFeO*/MgO=1.6-2.3, TiO2,FeO*,P2O5 に乏しく,MgO,CaO,K2O に富む. Rb, Ba, Zr, Y に富み,Nbに乏しい. Rb/Ba,Rb/Zr ,Nb/Zr も各々約0.14,0.35, 0.035と異なる.沼尻Gの組成も概ねこれと重なる.
3-1期aと,3-3期との組成差が,供給系の時間変遷の反映とすれば,3-2期の分散は,転換期でのマグマ系混在を表す可能性がある.そこで,安達太良第2降下火砕物の組成を,層序と併せ検討した. 本質物質は,軽石と下位スコリア(1)と上位スコリア(2;溶岩餅・火山弾を含む)に3分でき,3者間の組成上の食い違いは,いずれの組成変化過程にからも互いを導けず,噴火直前まで3者が孤立したことになる.層序との相関からは,噴火の途中で,MgO, TiO2の乏しい安山岩マグマ(スコリア1)から,苦鉄質安山岩マグマ(スコリア2)へ置換したことが判る.
スコリア1の主化学組成は,東中腹部1Gの最未分化組成に,スコリア2のそれは,沼の平南縁部Gの変化傾向未分化側延長上に各々対応する.この対応関係は,両G間で差のあるNb, Ni, Cr, V, Sc,やRb/Ba, Rb/Zrでも成立する.よって,12万年前の大噴火時に,苦鉄質マグマ供給系の転換が推定される.25_から_20万年前,マグマ系1(3-1期a+スコリア1)が形成された.およびマグマ系2(3-1期b)が独立して形成された.約8万年の噴火休止中,前者には未分化なマグマが残存したが,後者は噴出能力を失った.
12万年前頃,残存マグマ系1下部に,マグマ系3(3-3期)が付加する.熱供給により珪長質マグマが発泡して噴火し,マグマ系1も噴出する.引き続き,マグマ系3上部も残存珪長質マグマと爆発的に噴火,次第に静穏な噴火へと推移した.こうして溜まり内の苦鉄質マグマはマグマ系3へ置き換わり,約10万年以新の活動に引き継がれた.