日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G1-05
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G1 惑星科学
火星マントル組成融体の密度と火星の分化
*鈴木 昭夫大谷 栄治
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キーワード: 火星, マグマ, 密度, 高圧, オリビン
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抄録
1.はじめに
惑星形成のシミュレーションによれば、形成初期には内部が大規模に融解し、マグマオーシャンが形成されたと考えられている。そのような状態においては、固相と液相の分別が効率よく行われるため、金属相が惑星中心部に沈み込んでコアを形成し、またマントルでは結晶が分別して化学的不均質がもたらされた可能性がある。特に、上部マントル条件でリキダス相と考えられるオリビンとマントル組成融体との密度関係はマントルの分化過程を左右するため大変意義深い。これまで、筆者らは初期地球のマグマオーシャンを想定し、地球マントル組成融体の密度を高温高圧下で測定する実験を行ってきた。また、地球に比べてFeOに富む火星のマントル組成融体に関しても研究を進めている。火星マントル組成のモデルとしては、主としてMorgan and Anders (1979)によるもの(MA)とDreibus and Wanke (1984)によるものがあるが、後者は火星由来と考えられるSNC隕石をもとに推定されており、Shergottite Parent Body(SPB)と呼ばれている。MAとSPBの各モデル組成の特徴としては、どちらも地球マントルに比べてFeO/MgO比が高いが、MAはSPBに比べてAl2O3が重量%で倍程度も多い。MA組成融体の密度に関しては、以前に報告しているので、今回はSPB組成融体に関する密度測定の結果を主に報告する。加えて、火星マントル条件で相平衡実験も行ったので、その結果も示し、火星形成初期でマントルの分化を議論する。
2.実験方法
高温高圧実験にはKAWAI型マルチアンビル装置を使用した。密度測定には結晶浮沈法を用い、SPB組成の計算塩融体中で密度既知の物質が浮上するか沈降するかを調べた。具体的には、まず、試料を加圧し、続いて加熱してSPB組成珪酸塩のリキダス以上に所定の時間保持した後、急冷してから試料を回収した。それから、試料容器を切断して研磨し、密度比較用の結晶が実験前と比べてどちらに移動しているかを調べた。相平衡実験においては高温高圧下で10分から120分保持したものを回収し、EPMAおよび顕微ラマン分光装置で相の同定を行った。
3.結果と考察
オリビンを用いた実験の結果、6.0GPaではFo94組成のオリビンは浮上し7.0GPaでは沈降した。また、ダイヤモンドを用いた浮沈実験から、SPB組成融体の密度は14.2GPaでダイヤモンドの密度と等しくなることが分かった。密度測定実験から、SPB組成融体の密度と、その融体と共存しうるオリビンとの密度逆転は9.0GPaで起こることが示された。一方、相平衡実験によると、10.0GPaでのリキダス相はオリビンで、14.0GPaではガーネットであり、12.0GPa付近でリキダス相が変わる。これらの結果により、リキダス相であるオリビンは6.5GPaから12.0GPaまでの圧力範囲で周囲のSPB組成融体よりも高密度になり、火星のマグマオーシャン中を浮上しうることが示された。また、リキダス相の分別によって生じる成層構造により、火星で噴出したいくつかの異なるマグマが作られたと考えられる。
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© 2003 日本鉱物科学会
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