医学検査
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症例報告
腹水セルブロック検体の透過電子顕微鏡観察が高異型度漿液性癌の診断に有用だった一例 ―セルブロック検体を用いた透過電子顕微鏡観察―
松山 欽一町田 浩美加藤 輝石﨑 里美永井 多美子野田 修平石川 美保子石田 和之
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2024 年 73 巻 1 号 p. 130-136

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抄録

腹水における腺癌と悪性中皮腫の鑑別に,細胞診,セルブロックの免疫組織化学,セルブロックの透過電子顕微鏡観察を用いた一例を報告する。症例は70歳代女性で腹部膨満を主訴に受診し,画像検査で大量の腹水が認められた。腹水細胞診は,血性背景に核形不整が強く核内封入体と細胞質内空胞を伴う異型細胞を認め,腺癌が疑われた。しかし,オレンジG好性の細胞や異型細胞の辺縁不明瞭化,細胞質の重厚感がみられ,悪性中皮腫を否定できなかった。腹水セルブロックの免疫組織化学では,異型細胞はcytokeratin 7,PAX8,WT-1,ERが陽性で,p53過剰発現を認めたが,Ep-CAM,CEA,claudin 4は陰性であった。中皮マーカーはcalretininとD2-40が部分陽性,HEG1陽性を示した。高異型度漿液性癌を疑ったものの,腺癌に非典型的な染色性もみられたため,セルブロック検体の透過電子顕微鏡観察を行った。微絨毛の形状が最も保持された腫瘍細胞1個を同定し,長い順から10本の微絨毛についてそれぞれ長さ/直径(length-to-diameter ratio; LDR)値を計測した。微絨毛10本のLDR平均値は6.58で,10未満との腺癌の特徴を満たし,高異型度漿液性癌による悪性腹水と診断した。透過電子顕微鏡を用いた腫瘍細胞の微絨毛LDR値の計測は,腺癌と悪性中皮腫との鑑別に有用と考えられた。

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© 2024 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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