抄録
本研究の目的は, 心臓手術を受ける高齢者の発達的変容を見いだすことである.
M. Newmanの提唱する理論をふまえ, 高齢者の発達的変容を意識の拡張という視点から捉えることを前提とした.
Grounded Theory Approachを用いた質的機能的研究を行った. 68歳から83歳までの心臓手術を受ける高齢者男性8名女性2名の合計10名を対象とした. 対象者の平均年齢は 72.5歳だった. 術前から術後約2ヶ月目まで関わり, 公式面接及び随時の面接, 参加観察を行った. 得られたデータは継続的に比較分析した.
心臓手術を受ける高齢者の発達的変容は, 《自分らしさ》を中核カテゴリーとして発展していくプロセスであることが見いだされた. このプロセスには, 関連して進行する3つのカテゴリーと, 3つの段階が見いだされた. さらにこのプロセスを通して, 対象者は〈生きる力〉を産み出していることが明らかとなった.
一見高齢者に否定的な影響を及ぼすように思える心臓病と心臓手術の体験は, 高齢者が《自分らしさ》を発展させ, 主体的・肯定的な変容を遂げていく一つの契機となりうることが示唆された. また, 高齢者の個別性や多様性を追求していくことの必要性, 高齢者が《自分らしさ》を発展させていくことを促していけるような援助の必要性が示唆された.