におい・かおり環境学会誌
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特集(植物等を用いた快適な空気質への改善技術)
植物等を用いた快適な空気質への改善技術
大平 辰朗
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2011 年 42 巻 1 号 p. 1

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抄録

我々の周辺には生物が生み出す天然物質や人工的に作り出された合成物質等様々な化学物質が存在している.特に人工的に合成された物質は化学産業が発展する中で建築材料等の原料として大量に使用されるようになり,我々の生活水準の向上に大きく貢献してきた.しかしその反面,人間に対するマイナス面,即ち環境汚染問題が増加している.そのため,環境汚染の問題は特に重要視されており,それらの濃度の低減化策が検討されるようになった.そのような背景の中,植物等を用いた環境に優しい技術が注目されている.植物は,人間が地球上に現れた時代より,はるか前より地球上に出現し,過酷な環境下に対応して生活してきた.そのため,人類にはたえ難い環境でも,植物は生活していく知恵を身につけてきていると考えられ,最近の研究により,環境汚染物質に対して実に巧妙な浄化機能を備えていることが明らかにされてきている.そこで本特集ではそれらの一端を紹介することにする.
最初に植物の物質代謝機能を活用した二酸化窒素の浄化に関する研究を取り上げる.植物は,太陽エネルギーをエネルギー源として環境中から,物質を体内に取り込み,体内で物質変換,代謝し,自らは成長分化している.このような能力を利用した環境汚染の浄化修復方法はファイトリメディエーション(Phytoremediation)と呼ばれている.この能力の一部として,大気中の二酸化窒素等の窒素酸化物を浄化するというものがある.本特集では植物による浄化のメカニズム,二酸化窒素吸収代謝能の多様性,代謝能力の高い品種の作出等について興味深い内容を紹介する.
第二に,建材として用いられている木材による二酸化窒素の浄化について取り上げる.東大寺正倉院では,古くからヒノキの校倉の中のスギの唐櫃の中に数多くの御物が納められ,1250年間保存されてきた.校倉の内部は温・湿度が一定に保たれていることから,このことが保存状態のよさに影響していたと考えられてきた.しかし,最近の調査の結果,校倉内部の環境汚染物質である二酸化窒素やオゾン等が外気と比べて,70〜90%低減していることが判明した.このことはスギやヒノキ等の木材が環境汚染物質を浄化していることを示唆している.これらの効果の実証のため,いろいろな樹種の二酸化窒素に対する浄化能力が検討されており,最も浄化能の高いものとしてスギが見出されている.本特集では二酸化窒素の他,オゾン,ホルムアルデヒドの浄化能と二酸化窒素に対する浄化に関わる物質について等が紹介されており,実用的な面からも興味深いものとなっている.
次に吸着特性に優れている木炭についてである.ただしここで紹介するものは単なる木炭ではなく,分子ふるい機能木炭である.分子ふるいとは物質を選択するというものである.多孔質の木炭は,古くから水質浄化,悪臭・有害物質浄化等に用いられてきたが,これまで木炭による物質の吸着は,有害な物質でも残したい物質でも全て効率よく吸着するというものがほとんであり,できれば好ましい香りは残したいという希望が多かった.本特集では分子ふるいのメカニズムや商品化についても紹介いただいている.
最後に,植物等の香り物質による有害物質の除去とリラクゼーション効果等のプラスアルファの効果による総合的な空気質の改善技術の可能性について紹介する.香り物質には様々な機能が知られているが,アンモニア等の悪臭物質をはじめ,環境汚染物質である二酸化窒素やホルムアルデヒド等も効果的に除去できるものが見出されている.一方で鎮静効果やリフレッシュ効果等が顕著である香り物質も見出されている.これらを利用する技術は空気質の効果的な改善に寄与できる.最近の知見として二酸化窒素を効果的に除去できる香り物質や除去した後の形態等に関する内容を中心に紹介する.
植物には様々な働きがある.ここで紹介した内容はそのほんの一部にすぎません.本特集を機に,多くの読者が「植物等の有する空気質改善技術」について認識を深めていただければ幸いである.
最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.

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© 2011 (社)におい・かおり環境協会
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