におい・かおり環境学会誌
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42 巻, 1 号
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特集(植物等を用いた快適な空気質への改善技術)
  • 大平 辰朗
    2011 年 42 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    我々の周辺には生物が生み出す天然物質や人工的に作り出された合成物質等様々な化学物質が存在している.特に人工的に合成された物質は化学産業が発展する中で建築材料等の原料として大量に使用されるようになり,我々の生活水準の向上に大きく貢献してきた.しかしその反面,人間に対するマイナス面,即ち環境汚染問題が増加している.そのため,環境汚染の問題は特に重要視されており,それらの濃度の低減化策が検討されるようになった.そのような背景の中,植物等を用いた環境に優しい技術が注目されている.植物は,人間が地球上に現れた時代より,はるか前より地球上に出現し,過酷な環境下に対応して生活してきた.そのため,人類にはたえ難い環境でも,植物は生活していく知恵を身につけてきていると考えられ,最近の研究により,環境汚染物質に対して実に巧妙な浄化機能を備えていることが明らかにされてきている.そこで本特集ではそれらの一端を紹介することにする.
    最初に植物の物質代謝機能を活用した二酸化窒素の浄化に関する研究を取り上げる.植物は,太陽エネルギーをエネルギー源として環境中から,物質を体内に取り込み,体内で物質変換,代謝し,自らは成長分化している.このような能力を利用した環境汚染の浄化修復方法はファイトリメディエーション(Phytoremediation)と呼ばれている.この能力の一部として,大気中の二酸化窒素等の窒素酸化物を浄化するというものがある.本特集では植物による浄化のメカニズム,二酸化窒素吸収代謝能の多様性,代謝能力の高い品種の作出等について興味深い内容を紹介する.
    第二に,建材として用いられている木材による二酸化窒素の浄化について取り上げる.東大寺正倉院では,古くからヒノキの校倉の中のスギの唐櫃の中に数多くの御物が納められ,1250年間保存されてきた.校倉の内部は温・湿度が一定に保たれていることから,このことが保存状態のよさに影響していたと考えられてきた.しかし,最近の調査の結果,校倉内部の環境汚染物質である二酸化窒素やオゾン等が外気と比べて,70〜90%低減していることが判明した.このことはスギやヒノキ等の木材が環境汚染物質を浄化していることを示唆している.これらの効果の実証のため,いろいろな樹種の二酸化窒素に対する浄化能力が検討されており,最も浄化能の高いものとしてスギが見出されている.本特集では二酸化窒素の他,オゾン,ホルムアルデヒドの浄化能と二酸化窒素に対する浄化に関わる物質について等が紹介されており,実用的な面からも興味深いものとなっている.
    次に吸着特性に優れている木炭についてである.ただしここで紹介するものは単なる木炭ではなく,分子ふるい機能木炭である.分子ふるいとは物質を選択するというものである.多孔質の木炭は,古くから水質浄化,悪臭・有害物質浄化等に用いられてきたが,これまで木炭による物質の吸着は,有害な物質でも残したい物質でも全て効率よく吸着するというものがほとんであり,できれば好ましい香りは残したいという希望が多かった.本特集では分子ふるいのメカニズムや商品化についても紹介いただいている.
    最後に,植物等の香り物質による有害物質の除去とリラクゼーション効果等のプラスアルファの効果による総合的な空気質の改善技術の可能性について紹介する.香り物質には様々な機能が知られているが,アンモニア等の悪臭物質をはじめ,環境汚染物質である二酸化窒素やホルムアルデヒド等も効果的に除去できるものが見出されている.一方で鎮静効果やリフレッシュ効果等が顕著である香り物質も見出されている.これらを利用する技術は空気質の効果的な改善に寄与できる.最近の知見として二酸化窒素を効果的に除去できる香り物質や除去した後の形態等に関する内容を中心に紹介する.
    植物には様々な働きがある.ここで紹介した内容はそのほんの一部にすぎません.本特集を機に,多くの読者が「植物等の有する空気質改善技術」について認識を深めていただければ幸いである.
    最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
  • 高橋 美佐
    2011 年 42 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    植物は外界から大気汚染物質を体内へ取込み,代謝・分解して,大気浄化に貢献している.我々は大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)に着目して,NO2浄化における植物の可能性について研究してきた.217種類の植物について,NO2代謝能を調査し,植物種間には最大657倍の差があることが分かった.遺伝子操作による研究から,NO2は,硝酸代謝経路を介して代謝浄化されるとの仮説が支持された.イオンビーム*1法により,高いNO2浄化能を持つオオイタビ新品種(KNOX)を作出した.KNOXは実用化されつつある.
  • 辻野 喜夫
    2011 年 42 巻 1 号 p. 8-16
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    スギ間伐材を有効活用する技術の開発を目的として,スギ木口*1の空気浄化機能を検討した.スギは木口面において,その組織構造的特徴から仮導管の有効内部表面の寄与が大きく,空気浄化反応器となり,非常に優れた空気浄化能力を発揮した.心材*2,辺材*3とも,水との反応による浄化の寄与には,大きな差はなかったが,抽出成分との反応による寄与は,心材の部分で最も大きかった.また,木材の呼吸によりNO2,オゾンO3の浄化能力は復活した.スギ木口面のO3,NO2, HCHO浄化能力の比較では,O3の浄化能力が最も大きく74.8%,NO2 : 46%,HCHO : 19%であった.
  • 山下 里恵, 櫻川 智史, 松浦 弘直, 横山 公哉
    2011 年 42 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    ヒノキ材を様々な温度で処理した木炭について,トルエン/α-ピネン混合ガスの吸着特性を調べた.700℃で処理した木炭は,分子ふるい炭素のような作用を持つスリット状の狭い細孔構造を持つことで,空気中から有害な揮発性有機化合物(VOC)であるトルエンのみを吸着除去し,α-ピネンの好ましい香りを残すことが分かった.ロータリーキルンで調製したヒノキ間伐材を原料とするセラミック炭においても同様の特性が得られたことから,この分子ふるい機能を活用する空気質改善インテリアを開発した.
  • 大平 辰朗
    2011 年 42 巻 1 号 p. 27-37
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    我々の生活環境には多種類の環境汚染物質が存在しており,それらが原因で引き起こされる疾病が問題になっており,それらの低減化法の開発が急務となっている.これらの対策として樹木の香り成分(精油)を用いる方法がある.精油にはリラックス効果や抗酸化性などの快適性を増進させる効果の他,悪臭物質や環境汚染物質の除去機能が見出されている.これらの成分を利用すると悪臭成分や有害物質を除去するとともに,リラックス作用などの快適性増進効果を発揮させることが可能であり,快適な空気質に改善できる.
総説
  • 岩下 剛
    2011 年 42 巻 1 号 p. 38-50
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    1990年代に始まった,我が国のシックハウス,シックビル,シックビル問題は,建築基準法の改正をもたらし,建設業界に大きな影響を与えた.ホルムアルデヒド対策,機械換気の設置をベースに,さまざまな対策がなされ,化学物質空気汚染問題は沈静化に向かっているようにみえる.しかし,居住者,在室者による室内空気に対する不快の表現は未だ,無視できないほどに存在し,化学物質濃度は低くとも,臭気,知覚空気質といった表現では有意なレベルに至っていることがある.1930年代,米国の研究者であるYaglouが建築設備分野で知覚空気質の研究を始めて以来,欧米を中心に多くの研究成果が報告され,それは現在,知覚空気質による建材汚染評価,知覚空気質と作業効率との関係の考察といった形で脈々と続いている.本総説では,3回にわたり,上記の内容を解説することとしたい.
技術論文
  • 門脇 亜美, 大津 香織, 野口 大介, 杉本 沙友美, 坂内 祐一, 岡田 謙一
    2011 年 42 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2011/01/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    マルチメディアの分野において映像や音と共に香りを配信するために,変化する映像や音に合わせて香料の提示を制御する必要がある.しかし,連続的な香料の提示は残り香や順応の問題を引き起こす.これらの問題を解決するために,超微細なパルス射出を繰り返し提示し,香料の少量化が必要となる.我々は最短0.67m秒での超微細なパルス射出を可能とする香り提示装置を開発した.
    本研究の目的は,提示する香料の量を可能な限り減らした条件での効果的な香料の提示手法を確立することであった.香料を最少化する射出タイミングを解明するために,実験協力者の一呼吸中において香料を提示した際の嗅覚の時間特性を細かく測定した.
    測定の結果,実験協力者は息を吸い始めてから0.2秒後に鼻に届く香りを最も強く,また最も長い時間感じることが明らかになった.このタイミングで香料を提示したところ,5.6nLという微少な香料の提示によっても実験協力者全員が検知することができた.このことから,射出量を大幅に少なくできる効果的な香料提示手法を提案できるだろう.
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