2022 年 31 巻 1 号 p. 39-47
本研究の目的は,精神科病棟に勤務している看護師が,病棟の引っ越しを体験した患者の表す反応をどのように捉え,どのように対応したのか,また看護師にとって病棟の引っ越しはどのような体験であったのかを明らかにし,そこにどのような意味があるのかについて考察することである.
看護師は,引っ越しに直面した患者の反応を,漠然とした不安や,現実的な不安や不満,あまり関心を示さない薄い反応としてとらえていた.そうした患者の反応を見たり,関わったりすることで,看護師自身も不安や苛立ち,無力感など様々な感情を抱いていた.また,引っ越しは看護師の業務を増加させ,病院からの情報提供の遅れや引っ越し後の業務内容が変わることは看護師らを不安にさせていた.しかし,そうしたネガティブな感情であっても自身に生じた感情に気づいて,意味を把握することで,患者に素直に申し訳なさを伝えたり,気持ちを共有する,療養環境の調整をしたりするなど,ケアに活かすことができた.引っ越しをきっかけにした関わりによって患者への理解が深まったり,ケアの転機にもなっていた.引っ越しに直面した患者をケアする看護師を支えたものは,“気づかい”や“気配り”を土台とした,看護師チームの力であった.