2025 年 54 巻 1 号 p. 17-52
多段階モデリングは,消費者行動を分析するための重要な手法である.購買意思決定は,カテゴリー購買,ブランド選択,店舗選択,業態選択といった複数の段階を経て行われることが多い.これらの段階ごとのプロセスを理解し,統計モデルで体系的に分析することは,消費者の行動特性や意思決定要因を明らかにする上で不可欠である.本論文は,多段階モデリングの理論的背景を整理するとともに,主にマーケティング分野での応用例を取り上げている.具体的には,ロジットモデルやプロビットモデルをはじめとする離散選択モデル,階層ベイズモデル,混合ロジットモデルなど,多段階モデリングで活用される代表的な手法を概観している.また,スキャンパネルデータなど,実務的なデータ収集や解析に用いられるデータ形式についても触れている.さらに,複数段階を統合的にモデル化するアプローチを検討し,カテゴリー間の相互依存性や消費者間の異質性を考慮する手法について解説している.これらの知見は,マーケティング戦略だけでなく,交通行動分析や旅行計画といった他分野にも応用可能性がある.本論文は,多段階モデリングが果たす役割を再評価し,その実務的価値を明らかにすることを目的としている.