本論文では,乱塊法モデルにおける順序制約のある場合の対照との多重比較検定法を考える.Williams (1971)は,多標本モデルにおいて正規性を仮定した場合の
検定に基づく閉検定手順を提案した.本論文では,白石・松田 (2015)に類似の検定に基づく閉検定手順,線形統計量に基づく閉検定手順,累積カイ二乗の最大成分に基づく閉検定手順を提案する.提案した検定手順の検出力をモンテカルロシミュレーションで調査した結果,白石・松田 (2015)に類似の検定に基づく閉検定手順と累積カイ二乗の最大成分に基づく閉検定手順は Williams (1971)に類似の
検定に基づく閉検定手順より優れていることが分かった.
多段階モデリングは,消費者行動を分析するための重要な手法である.購買意思決定は,カテゴリー購買,ブランド選択,店舗選択,業態選択といった複数の段階を経て行われることが多い.これらの段階ごとのプロセスを理解し,統計モデルで体系的に分析することは,消費者の行動特性や意思決定要因を明らかにする上で不可欠である.本論文は,多段階モデリングの理論的背景を整理するとともに,主にマーケティング分野での応用例を取り上げている.具体的には,ロジットモデルやプロビットモデルをはじめとする離散選択モデル,階層ベイズモデル,混合ロジットモデルなど,多段階モデリングで活用される代表的な手法を概観している.また,スキャンパネルデータなど,実務的なデータ収集や解析に用いられるデータ形式についても触れている.さらに,複数段階を統合的にモデル化するアプローチを検討し,カテゴリー間の相互依存性や消費者間の異質性を考慮する手法について解説している.これらの知見は,マーケティング戦略だけでなく,交通行動分析や旅行計画といった他分野にも応用可能性がある.本論文は,多段階モデリングが果たす役割を再評価し,その実務的価値を明らかにすることを目的としている.
野球の試合において“流れ” は存在するのだろうか.ここでいう“流れ” とは,「1 つのプレーによってもたらされる,その後の試合展開に影響を与えるもの」のことを言う.複数の先行研究では,“流れ” は確証バイアスをはじめとした認知的な錯誤,錯覚であるとしている.しかし,“流れ” が生じる,もしくは変わる要因を明確に定義して分析に反映した例は限られている.そこで本研究では「ピンチの後にチャンスあり」という通説に着目し,日本の高校野球のデータを用いて再検証する.場面の重要度を示すLeverage Index を基にピンチを定義し,「ピンチをしのいだ後か否か」を処置変数とする分析アプローチを提案する.出塁率と得点を出力とし,モデル選択と回帰分析により処置の効果を検証する.また,傾向スコアマッチングの適用有無の両ケースについて結果を示す.
機械学習やデータ科学は,与信,採用,保険などの重要な決定に使われるようになってきた.そこで,これらの決定を,人種や性別などのセンシティブ情報に対して公平性を担保しつつ行う公平性配慮型機械学習が研究されている.本解説では,まず機械学習の予測が不公平になる原因と,その原因ごとの事例を紹介する.そして,機械学習で用いられる形式的公平性規準について説明し,同時には達成できない規準があるといった性質を紹介する.後半では,機械学習で公平性を保つための課題として,公平性の検証手法や公平性を保証する学習手法などを紹介する.
機械学習を利用する上での課題の一つに「機械学習モデルはブラックボックスで説明ができない」点があげられる.このようなモデルのブラックボックス性の問題を解消するために,機械学習モデルの“説明” の研究が活発になされている.本稿ではこれら“説明” 手法の代表的な研究を紹介する.また,近年の研究においてこれらの“説明” 手法そのものの信頼性に課題があることが明らかになってきている.本稿ではこれら“説明” の信頼性に関する最近の研究についても紹介する.
差分プライバシーは,個人のプライバシーを保護したまま統計解析を行う際の安全性指標のデファクト標準として知られており,米国の企業や政府などで導入が進められている.本論文では,差分プライバシーとはどのようなものか,どのような安全性を保証するのか,どのようなモデルがあるか,といった差分プライバシーの基本的な事項について簡単に説明する.