抄録
関東南西部において,堆積年代の分解能が高い立川-武蔵野ローム層について植物珪酸体を分析した.その結果,三崎面形成期(MIS 5.1)に対比される時期以降,気候変化を示唆する顕著なササ属/メダケ属の変動があり,この変動はグローバルな同位体変化に対比できることが明らかとなった.富士吉岡テフラ(F-YP)直上の下末吉/武蔵野ローム層の境界にあたる三崎面形成期は,MIS 5.1に対比されるメダケ属が優勢な温暖期である.箱根安針テフラ(Hk-AP)の少し下位から箱根三色旗テフラ(Hk-SP)までの武蔵野ローム層下部では,ササ属が優勢となる寒冷な植生卓越期(海退期)でMIS 4に対比される.またHk-SP以上の武蔵野ローム層上部は,メダケ属が優勢な温暖期で,中津原(立川1)河成段丘形成に関わるMIS 3前半に堆積した.姶良Tnテフラ(AT)より下位の立川ローム層下半部では,寒冷期を挟んでメダケ属が2時期で拡大し,MIS 3後半に寒暖の変化があったことが認められる.さらに,AT以上の立川ローム層上部ではササ属が優勢で,MIS 2の寒冷期(海退期)に対応する.
立川ローム層では,森林/草原の植生変化とこれに対応した褐色土層(褐色火山灰土層)と黒色土層(暗色帯・黒ボク土層)が交互に出現するところがある.これらの土層の形成には,気候変化が直接関係したというよりも,森林植生と草原植生の変化が関係するように思われる.ATを挟んで上下に認められる暗色帯では,非タケ亜科起源珪酸体が特徴的に増加して草原的植生の拡大を,一方,褐色土層では広葉樹起源珪酸体が連続的に検出され,森林が成立したことを示す.