第四紀研究
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47 巻, 1 号
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論説
  • 佐瀬 隆, 町田 洋, 細野 衛
    2008 年 47 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2008/02/01
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    関東南西部において,堆積年代の分解能が高い立川-武蔵野ローム層について植物珪酸体を分析した.その結果,三崎面形成期(MIS 5.1)に対比される時期以降,気候変化を示唆する顕著なササ属/メダケ属の変動があり,この変動はグローバルな同位体変化に対比できることが明らかとなった.富士吉岡テフラ(F-YP)直上の下末吉/武蔵野ローム層の境界にあたる三崎面形成期は,MIS 5.1に対比されるメダケ属が優勢な温暖期である.箱根安針テフラ(Hk-AP)の少し下位から箱根三色旗テフラ(Hk-SP)までの武蔵野ローム層下部では,ササ属が優勢となる寒冷な植生卓越期(海退期)でMIS 4に対比される.またHk-SP以上の武蔵野ローム層上部は,メダケ属が優勢な温暖期で,中津原(立川1)河成段丘形成に関わるMIS 3前半に堆積した.姶良Tnテフラ(AT)より下位の立川ローム層下半部では,寒冷期を挟んでメダケ属が2時期で拡大し,MIS 3後半に寒暖の変化があったことが認められる.さらに,AT以上の立川ローム層上部ではササ属が優勢で,MIS 2の寒冷期(海退期)に対応する.
    立川ローム層では,森林/草原の植生変化とこれに対応した褐色土層(褐色火山灰土層)と黒色土層(暗色帯・黒ボク土層)が交互に出現するところがある.これらの土層の形成には,気候変化が直接関係したというよりも,森林植生と草原植生の変化が関係するように思われる.ATを挟んで上下に認められる暗色帯では,非タケ亜科起源珪酸体が特徴的に増加して草原的植生の拡大を,一方,褐色土層では広葉樹起源珪酸体が連続的に検出され,森林が成立したことを示す.
  • 里口 保文, 服部 昇
    2008 年 47 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2008/02/01
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    琵琶湖西方の堅田丘陵に分布する堅田累層は古琵琶湖層群上部に位置し,鍵層となるいくつかの火山灰層を挟む.そのうち上仰木I火山灰層は,房総半島の上総層群上部のKs11火山灰層とも対比されており,中部更新統の広域火山灰としても重要である.この上仰木I火山灰層の上位には,これまで未記載であった伊香立I,II,山下火山灰層がある.本論ではこれらを含め,上仰木I火山灰層の上位にある火山灰層の記載を行い,その記載岩石学的性質と火山ガラスの化学成分,層位から上総層群の火山灰層との対比を検討した.その結果,古琵琶湖層群の上仰木II,伊香立II火山灰層は,上総層群のKs10,Ks5火山灰層とそれぞれ対比された.さらに,堅田地域最上部にある山下火山灰層は,その性質およびコナラ属アカガシ亜属花粉化石の多産層準より上位にあるということから,大阪湾で掘削された東灘1,700mボーリングコア中のK1-175火山灰層と対比された.それらの火山灰層の年代から,堅田丘陵は少なくとも350 kaまでは堆積域にあったことが示された.
  • 姉崎 智子, 山崎 京美, 本郷 一美, 菅原 弘樹
    2008 年 47 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2008/02/01
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    日本列島の本州,四国,九州に生息するニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)の下顎骨臼歯サイズの地理的多様性と時間的変化について検討した.分析に用いた資料は,本州,九州より得られた現生資料と,縄文時代から平安時代の考古遺跡から出土したイノシシ骨である.分析では,下顎第3,第4小臼歯の頬舌径および第1,第2大臼歯の頬舌径を使用した.現生資料群と縄文時代の資料から,列島の東ではイノシシの臼歯サイズが大きく,西にいくにつれて小さくなる傾向が認められた.九州の個体群は,現生・考古資料ともに本州に比べて顕著に小さい.
    一方,弥生時代においては列島の西でイノシシの臼歯サイズが大きく,東で比較的小さい傾向が認められた.また,北部九州および本州西部では,遺跡間で臼歯サイズに顕著な差が認められ,その変異幅は縄文時代および現生資料の地理的変異幅を超える.弥生時代におけるこのような傾向の背景には,特定地域のイノシシを人為的に移動させるなどの影響があったことが想定される.
短報
  • 中村 有吾, 丸茂 美佳, 平川 一臣, 澤柿 教伸
    2008 年 47 巻 1 号 p. 39-49
    発行日: 2008/02/01
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    北海道東部,知床半島のほぼ中央に位置する羅臼火山は,過去約2,200年間のうち3時期にマグマ噴火したことが知られており,それぞれ降下テフラ(Ra-1 : 500~700 cal BP, Ra-2 : ca. 1,400 cal BP, Ra-3 : ca. 2,200 cal BP)および火砕流を噴出した.これら羅臼起源のテフラは,いずれも斜方輝石および単斜輝石を含むなど鏡下での特徴が類似するが,脱水ガラス屈折率は異なり,識別が可能である.羅臼火山の南西約4.5kmに位置する天頂山火山から約1,900年前に噴出した天頂山aテフラ(Ten-a)は,多量の石質岩片のほか,フレーク状火山ガラス,斜長石,斜方輝石などの本質物質を含む.その火山活動はマグマ水蒸気噴火だったと推定される.Ten-aの噴出量は約0.02km3である.
    羅臼岳の南~南南西方向約5km付近,標高500~750mの地域には,羅臼湖など多数の沼沢地や湿原が点在する.複数の湿原での掘削調査の結果,駒ヶ岳c1テフラ(AD1856),樽前aテフラ(AD1739),駒ヶ岳c2テフラ(AD1694),Ra-1,摩周bテフラ(774~976 cal BP),Ten-a, 一の沼火山灰の存在と層序が明らかになった.そのほか,知床半島の南部には,摩周起源の摩周lテフラ(ca. 13,000 cal BP)が分布する.
  • 堀 和明, 小出 哲, 杉浦 正憲
    2008 年 47 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2008/02/01
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    濃尾平野内陸部の河成低地において採取した2本のコア堆積物を解析し,低地とその地下を構成する堆積物の特徴を検討した.2本のコアの採取地点は約280m離れているが,表層河成層の下位にみられる海成層は両コアともに類似しており,海成層が累重していた時期の堆積環境はほぼ同じだったと考えられる.河成層は約4,000 cal BP以降に堆積したが,ST1コアでは植物片の薄層を多く含む泥質堆積物で特徴づけられる氾濫堆積物が海成層を覆って厚く累重する.それに対し,ST2コアでは砂礫からなる流路堆積物が下位の海成層を侵食し,この上にST1コアと同様の氾濫堆積物が積み重なる.また,両コアの氾濫堆積物は2つの層準に極細粒~細粒砂層を挟在し,これらの砂層はそれぞれ4,000~1,400 cal BP, 1,400 cal BP以降に堆積したと考えられる.これは,両地点が砂の堆積を被る規模の洪水を少なくとも2度経験したことを示唆する.
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