日本列島の堆積性海岸の大部分は,波浪の堆積作用が支配的で,砂や礫の海浜を伴う波浪卓越海岸である.そうした海岸での長期間にわたる土砂の堆積により浜堤や海岸砂丘が発達する.浜堤や海岸砂丘の地形や地層には,様々な古環境情報が記録されているが,これまで十分な注意が払われてきたとは言いがたい.近年,砂礫質の堆積物の構造は地中レーダ(GPR)により非破壊・連続的に探査でき,また年代も光ルミネッセンス(OSL)年代測定により得られるようになった.これらの手法を有効に利用することで,日本列島全体に分布する波浪卓越海岸は膨大な古環境アーカイブとなりうる.ここでは,日本列島の波浪卓越海岸における浜堤や砂丘の地理的特性をまとめ,それらの地層と地形が,過去の海岸線移動,海面変動,冬季モンスーン変動,津波などの突発的事象など,古環境の記録としてどのような機能を持つかについて述べる.