抄録
1989年より1991年までに経験した直腸カルチノイド8症例9病変について臨床病理学的に検討し,術前診断と治療方針について考察した.腫瘍径は2.0cmの1例以外すべて1cm以下であった.6例に術前超音波内視鏡(EUS)を施行し固有筋層(PM)上層浸潤疑いの1例と,ヘモクリップで深逹度診断が不可能であった1例以外,粘膜下層(SM)と診断した.リンパ節転移例は認めず,SMで腫瘍径2.0cmの症例に多発性肝転移を認めた.治療はEUS未施行例と深逹度不明例とPM上層浸潤疑い例に経仙骨式直腸局所切除術(局所切除)を施行し,肝転移例には局所切除と肝動脈cannulationを施行し,他のSM例には内視鏡的polypectomyを施行した.組織学的診断はpm上層浸潤例以外すべてsmであり,リンパ節転移はなく,EUS診断と全例一致し,EUSは術前の深逹度診断,壁在リンパ節転移診断に有用であると思われた.この結果EUSを始め術前診断を総合的に判断すれば,治療方針の決定が可能であると判断した.