2024 年 46 巻 4 号 p. 35-49
教室で実社会の論争問題を議論する授業(論争問題学習)が展開されるなか,特定の優秀な子どもが授業内の議論を支配する「議論支配」の問題が指摘されている。本稿の目的は,「議論支配」が生じている/生じていないクラスにおける論争問題学習の授業過程の分析と,2クラスの生徒への聞き取り調査を通して,RQ1「どのような教室空間において/であれば,一部の生徒による『議論支配』の問題は,生じやすい/生じにくいのか?」,RQ2「『議論支配』を敢行する側の子どもの論理は,いかなるものか?」を検討した。その結果,互恵的で協働的な教室風土では「議論支配」は生じにくく,競争的で独立的な教室風土では「議論支配」が生じやすいこと,一部の生徒による「議論支配」は,権力に対抗するため競争と淘汰によって強い言説の創出を目指すリベラリズムに近い考えにもとづくものであり,本人なりの正義(論理)にもとづいてその行為に及んでいる,ということを仮説的に明らかにした。