日本作物学会紀事
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日本の主要農作物種子法廃止後の稲種子生産の現状と課題
藤井 みずほ鴨下 顕彦
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2024 年 93 巻 2 号 p. 140-154

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抄録

2018年の主要農作物種子法(種子法)廃止後の稲種子(以下,種子)生産の課題を明らかにするために,46道府県の種子生産担当者と,5道県の種子生産農家への調査を2018年から2021年に行い,情報公開が多くない種子生産農家の収益性や労働投入量についても評価した.茨城県と埼玉県の種子生産農家の経営事例では,種子生産は食用生産と比較して,10 a当たり労働時間が約5時間長く,所得が約5万円高く,労働時間当たりの付加価値(労働生産性)は約1600~1900円/時 高かった.北海道の事例の採種面積平均は12.6 haで,労働時間が短く労働時間当たりの生産価額は高く,農家の技術や経営評価も高かった.労働時間が長く生産価額が最大の富山県の44戸の農家の中では,採種圃場面積の大きな農家ほど労働生産性が高く,経営評価も高い傾向であった.2021年の時点では,46道府県庁の7割以上の県では民間品種促進の取組みは行われていなかったが,民間品種の比率は少ないものの漸増しており,企業と生産者のマッチング支援等,官民連携の取組みをしている県も少数あった.将来的な種子生産の拡大・縮小の意向は県による違いがあったが,約4割の県で10年程度後の展望は未定であった.原原種・原種生産,一般種子生産ともに,人材確保・育成,施設老朽化,生産の非効率性が最も重要な課題であった.酒造好適米では独自品種を含む62(延べ77)品種の種子生産が道府県により行われており,多数品種による労働時間の増加も課題と考えられた.本研究は種子生産における労働生産性の改善の重要性を示した.

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