日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
最新号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
研究論文
栽培
  • 大平 陽一, 加藤 仁, 下野 裕之
    2024 年 93 巻 2 号 p. 107-121
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    作期分散を可能にする水稲初冬直播き栽培技術の北陸地域での確立に向けて,品種,種子の生産年次および種子コーティングが越冬後の出芽率に及ぼす影響ならびに,機械播種による収量性を評価した.当地域で普及している6品種のうち,「北陸193号」を除く5品種は手播きによる出芽率が34~68%であり実用性があると考えられた.また,前年産種子は出芽率が当年産種子に劣りやすい点,チウラム水和剤の種子コーティングが出芽率を向上させる点を明らかにした.当年産種子の準備の観点から早期に収穫できる早生品種「つきあかり」を機械播種試験に供試し,安定した収量に必要な苗立ち数を確保するための播種量を検討したところ,耕起同時播種での苗立ち率は概ね25%程度と考えられ,当年産種子約11 kg 10 a‒1が必要と推定された.実証試験として品種「つきあかり」を用いた生産者圃場での初冬直播き栽培では,肥効調節型窒素肥料を播種時に土中施用することで全刈り精玄米重が411~529 kg 10 a‒1であり,収量500 kg 10 a‒1を超える事例が全3シーズンで得られた.これら知見は,北陸地域における初冬直播き栽培の初めての報告であり,本技術を体系的に確立するための基礎的知見となる.

  • 佐藤 颯太, 石山 真士, 田中 一郎, 秋本 正博
    2024 年 93 巻 2 号 p. 122-131
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    十勝地方のラッカセイでは適正な栽植密度の情報がなく,習慣的に5~6株 m–2で栽培が行われている.本研究では,異なる栽植密度で栽培したラッカセイの生育や収量を比較することで十勝地方における適正な栽植密度を検討した.2021年と2022年に早生品種 「タチマサリ」 を帯広畜産大学実験圃場で栽培した.植え穴の間隔が30 cm,20 cm,および15 cmのマルチを用いることで,栽植密度が5.8株 m–2 (5.8株区), 8.7株 m–2 (8.7株区),および11.6株 m–2 (11.6株区)となる3つの試験区を設置した.5.8株区では,収穫期まで茎葉部が生長し続けたが,8.7株区と11.6株区では葉面積指数が最大となった後に生長が停滞した.その結果,登熟期の株は8.7株区と11.6株区で小型であり,株当たりの稔実莢数も少なかった.稔実莢率は,5.8株区に比べ8.7株区と11.6株区で高く,5.8株区では未熟莢が多数発生した.単位面積当たりの子実収量は,5.8株区の168 g m–2に比べ8.7株区で254 g m–2,11.6株区で264 g m–2と有意に高く,栽植密度を高くすることで株当たりの生産量は低くなるものの,単位面積当たりの子実収量を改善することができた.11.6株区は8.7株区に比べ栽培に種子を多く必要とするほか,茎葉の繁茂による病害の発生が目立った.十勝地方における 「タチマサリ」 の栽植密度として,本研究の設定のなかでは8.7株m–2が適正と考えられた.

  • 川崎 洋平, 浅見 秀則, 藤本 寛
    2024 年 93 巻 2 号 p. 132-139
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    温暖地西部の中山間地域では小区画・分散圃場が多く,大規模化に伴う省力・低コスト化が難しいことから生産者の生産性の向上が課題となっている.近年,温暖地のダイズ栽培において,選択性茎葉処理型除草剤の活用による中耕培土を省略した狭畦密植栽培が普及しつつある.本研究では機械収穫適性に優れる黒ダイズ新品種「黒招福」を対象として,中山間地域において省力的な狭畦密植栽培が可能であるか検討した.試験は2021年と2022年に西日本農業研究センター所内 (広島県福山市) と中山間地域の現地農家圃場 (広島県東広島市) の水田転換畑圃場にて行った.所内においては,黄ダイズ品種「サチユタカA1号」を比較対象として,6月下旬の標播と7月下旬の晩播を設定した.株間は45 cm,30 cm,15 cmの3条件を設定し,無中耕無培土とした.現地農家圃場では,条間30 cmの狭畦密植栽培にて7月上旬に「黒招福」の播種を行った.所内の標播では年次によっては「黒招福」の倒伏程度が大きくなった.一方,晩播においては「黒招福」の倒伏程度は両年ともに「サチユタカA1号」よりも小さかった.収量については標播では年次と品種の交互作用が有意であったものの,晩播では有意な品種間差は認められなかった.現地農家圃場においても,2か年ともに倒伏することなく正常に成熟期に到達し,2022年の全刈収量は現地の標播の「サチユタカ」を上回った.以上の結果から温暖地西部の中山間地域において,「黒招福」は晩播において黄ダイズ品種と同様に省力的な狭畦密植栽培が可能であると考えられた.

その他
  • 藤井 みずほ, 鴨下 顕彦
    2024 年 93 巻 2 号 p. 140-154
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    2018年の主要農作物種子法(種子法)廃止後の稲種子(以下,種子)生産の課題を明らかにするために,46道府県の種子生産担当者と,5道県の種子生産農家への調査を2018年から2021年に行い,情報公開が多くない種子生産農家の収益性や労働投入量についても評価した.茨城県と埼玉県の種子生産農家の経営事例では,種子生産は食用生産と比較して,10 a当たり労働時間が約5時間長く,所得が約5万円高く,労働時間当たりの付加価値(労働生産性)は約1600~1900円/時 高かった.北海道の事例の採種面積平均は12.6 haで,労働時間が短く労働時間当たりの生産価額は高く,農家の技術や経営評価も高かった.労働時間が長く生産価額が最大の富山県の44戸の農家の中では,採種圃場面積の大きな農家ほど労働生産性が高く,経営評価も高い傾向であった.2021年の時点では,46道府県庁の7割以上の県では民間品種促進の取組みは行われていなかったが,民間品種の比率は少ないものの漸増しており,企業と生産者のマッチング支援等,官民連携の取組みをしている県も少数あった.将来的な種子生産の拡大・縮小の意向は県による違いがあったが,約4割の県で10年程度後の展望は未定であった.原原種・原種生産,一般種子生産ともに,人材確保・育成,施設老朽化,生産の非効率性が最も重要な課題であった.酒造好適米では独自品種を含む62(延べ77)品種の種子生産が道府県により行われており,多数品種による労働時間の増加も課題と考えられた.本研究は種子生産における労働生産性の改善の重要性を示した.

研究・技術ノート
  • 村田 資治
    2024 年 93 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    パン用コムギ「せときらら」の収量をリモートセンシングで予測し,その予測収量に応じて開花期に可変追肥することで子実タンパク質含有率 (以下,子実タンパク) を制御可能かどうか検証した.試験は3年間行った.1年目と2年目は収量予測モデルを作成した.各年次において茎立ち期までの施肥量が異なる6処理区を設置した.穂揃期に植生指数 (NDVIとGNDVI),穂数,SPAD値,成熟期に収量を調査した.2年間のデータから,植生指数ごとに収量の単回帰直線を作成し,これを収量予測モデルとした.3年目は可変追肥の有効性を検証した.11月下旬 (標播) と12月中旬 (晩播) に播種した群落を対象に,標播の開花始期と晩播の出穂期に植生指数を取得し,収量を予測した.既存の追肥量予測モデルを用いて,予測収量から追肥量を算出し,開花期に追肥した.成熟期に子実タンパクを調査した.収量予測モデルでは,GNDVIはNDVIと比べて回帰直線の決定係数が高く,穂数およびSPAD値とも有意な相関があった.さらに予測精度も高かったことから,GNDVIによる収量の回帰直線を収量予測モデルとして採用した.可変追肥の検証では,子実タンパクは標播ではほぼ目標値通りであったが,晩播では目標値を大幅に超過した.晩播では収量が過大評価されたことと,登熟期間中の高温により子実タンパクが高まったことが誤差の原因と考えられた.以上より,標播ではGNDVIによる収量予測と可変追肥が有効であるが,晩播ではモデルの改良が必要であることが明らかとなった.

速報
連載ミニレビュー
情報
会員の広場
feedback
Top