中山間地域の水田転換畑における多収栽培技術の確立は国内の農地の生産性向上において重要である.一方で,ダイズやムギ類では排水不良による湿害が問題となっている.これまでに中山間地域において,圃場造成時の切土箇所と盛土箇所で土壌水分量の傾向が異なっていることが示唆されており,平坦地よりも切土盛土による元地形からの変化量が相対的に大きい中山間地域においては,圃場造成履歴に着目することで多収に有効な排水対策を講じられる可能性がある.本研究は中山間地域における本暗渠未施工の水田転換畑を対象に,圃場内の排水不良を補助暗渠の利用により改善する技術の開発を目的として行った.試験は2020年から2022年に広島県東広島市の中山間地域において水田輪作を実施している農家圃場において行った.過去の航空写真を用いて当該圃場の切土盛土の分布地図を作成し,もみ殻暗渠施工機と弾丸暗渠施工機を使用して切土箇所と盛土箇所間の水の流れを改善する目的で,切土箇所と盛土箇所を接続する方向に補助暗渠の施工を行った.施工時に測量したところ,盛土箇所において地表面の沈降が見られ,盛土箇所に水が集まりやすいことが示唆された.2022年に,盛土箇所に深さ35 cmの排水口を設けた上で,補助暗渠を排水口から放射状に施工したところ,ダイズのm2当たり株数が向上し,全刈収量において有意な増収効果がみられた.これらの結果は,中山間地域においては,圃場の造成履歴に基づき排水口を検証し,盛土への集水を利用することで,排水対策の効果が高まることを示唆している.