抄録 対話型鑑賞は鑑賞者同士が会話をしながら実施する美術鑑賞法であり,諸外国の医療者教育に取り入れられている.われわれは,基礎歯学,臨床歯学科目が本格的に開始する第2学年の歯学生に対し,対話型鑑賞を取り入れた本学独自の教育プログラムを実施した.本研究の目的は,この新たな教育プログラムによる歯科医療者としての教育効果を検証し,実践していくうえでの問題点を明らかにすることである.
今回の教育プログラムは合計3ユニットからなり,ユニット1とユニット2は対話型鑑賞を行うグループと,対話型鑑賞者をピア評価するグループに分かれて実施した.ユニット3は全員で対話型鑑賞を行い,対話型鑑賞が歯科医師として将来どのように役立つかレポート課題で考察させた.
学生は,将来歯科医師としての診察,診断,治療計画の立案,そして患者との信頼関係の確立やチーム医療における医療者間の連携に必要とされる観察力,思考力,コミュニケーション力を対話型鑑賞から主体的に修得することが明らかとなった.また,ピア評価を取り入れることにより,多人数で同時に実施することが可能となり,観察力や傾聴力をより向上させることが考えられた.一方,絵画から自由に物語を想像する力は,非言語的要素から患者の気持ちを汲み取ることや患者の背景を考えるうえでも必要であると考える反面,低学年ではEBM(evidence based medicine)とNBM(narrative based medicine)の明確な区別が難しいことが示唆された.