本報告では、宝暦十年(一七六〇)版『永代重宝記宝蔵』所収「食物本草要歌」の翻刻と紹介を行う。近世初期には、『和歌食物本草』をはじめとし、和歌形式で日常の食物の効能を説いた食物本草書が複数生まれた。これまでの研究では、この『和歌食物本草』の典拠や異同に主眼が置かれ、前述のような和歌形式の食物本草書は、近世中期以降にはほとんどないと考えられてきた。しかし、本報告においては「食物本草要歌」と『和歌食物本草』の本文比較を行うことで、近世中期以降にも数度の版を重ねた『永代重宝記宝蔵』に、『和歌食物本草』と同一、または類似した和歌が含まれていることが明らかになった。こうしたことから、和歌形式で書かれた食物本草書が、広く近世の人々が持っていた日常的な食物の効能に関する「知」を把握する上で有用な資料であると結論づけるに至った。