2022 年 1 巻 p. 1-7
コミュニケーションとは「意味の共有」と定義される。一方が共有を望んで頭の中の意味を記号化しメッセージとして発信し,他方がそれを受信して記号を解読し頭の中に同じ意味が生じれば,コミュニケーションが成立したことになる。また,コミュニケーションの場には必ずコンテキスト(文脈,状況)があり,同じメッセージであってもコンテキストによって意味は異なってくる。コミュニケーションの問題を引き起こす障害は,大きく4つに類別できる。①記号の入出力の問題が聴覚障害や音声・構音障害であり,②記号の操作の問題が大脳左半球の損傷で生じる失語症である。また,③主にコンテキストの利用の問題として,近年では認知コミュニケーション障害(CCD)という概念が提唱されている。CCDとは,注意・記憶・遂行機能などの認知機能障害を背景にしたコミュニケーション障害で,大脳の右半球損傷,前頭葉損傷,瀰漫性損傷によって生じることがある。さらに,④認知症は意味の問題に加えて②③も併発しているものと捉えることができる。失語症に関して日本では最近まで,機能障害水準の評価尺度がほとんどでコミュニケーション障害(活動制限)水準を直接評価する尺度は乏しかったが,現在は複数のものが開発・発表されつつある。CCDの評価尺度は開発の途上にある。最後に,老化におけるコミュニケーションの問題についても,CCDの研究・臨床で得られる知見が有用であろうと論じた。