抄録
1 目的 第1報の調査研究を受け、「自分の食生活に責任を持てる児童生徒の育成」を目標として、家庭科教育のなかでどのような知識や技能を身につけさせるか、またそのためにどのような調理実習を構成すれば有効かを検討する。アンケートでは児童・生徒の調理技能の低下が明らかになった。その実態を具体的に知り、改善の方向を探るために、小・中・高・大学の児童・生徒・学生を対象に調理の実際をビデオで撮影して分析を行うこととする。実習内容は食材・調理法ともに日常生活によく登場する基本的なものを選び、全校種を通して同じ内容とする。 ビデオ分析は、どのような調理操作が身についているか、成長のどの段階で技能発達の停滞がみられるのか、児童・生徒自身はそれをどうとらえているか等の観点から行い、調理技能の獲得と同時に食の自立に向けての意欲を育てるための手だてを考える。それらを踏まえて、児童・生徒が日常生活に活用しやすい簡素な調理を提案し試みに実施して生徒の反応をみて教材化をはかる。
2 方法 ? 初めに調理技能の実態をビデオを用いて分析・把握する。小・中・高並びに大学生に対し、同一の内容で調理実習を行い、手もとを中心にビデオ撮影を行う。小・中・高はいずれも家庭科授業の流れの中で行い、大学生については時間外に実施する。 調理は次の通りで、小学生は作り方を指導してから、他は指導なしで1品を1人で担当する。 ビデオ撮影時の調理:みそ汁(煮干だし、油揚げ、わかめ)野菜炒め(ハム、キャベツ、にんじん、たまねぎ、にら) ゆで物 (じゃがいもの皮をむいて切り、ゆでる)
? 校種別にビデオの分析を行い、問題点を把握する。さらに同一の調理操作について、学校段階を追って技能の発達状況を比べる。
? ビデオによる実態把握に基づき、食生活の自立のために有効と思われる、簡単で実生活に応用しやすい調理を提案し試行して教材化に有効かを判断する。試行調理:肉と野菜の炒め蒸し煮(豚肉と季節の野菜を炒めた後、蒸し煮する。調味は塩、醤油、砂糖を用いる。)
3 結果と考察 ビデオ分析によると、児童・生徒の調理技能は年齢に伴い顕著な進歩が見られなかった。小学生は調理に対する興味や、生活参加への意欲を示して積極的に取り組んでいた。家庭で目にした方法を進んで実行する姿勢も見られた。中学生についてもほぼ同様で、楽しんで調理に取り組んでいたが、皮むきなど技能の上達は見られない。高校生では、乾物の扱い方の知識がなく、干しわかめを大量に戻す等、調理技能が身についていない現状に対し、できない自己を情けなく思うという心理的反応がみられた。大学生の技能は、性差よりも個人差が大きかったが全体的には技能は高校生と大きな差がなかった。小・中・高・大を通してのこれらの実習に直接携わるなかからも多くのヒントが得られた。技能の定着の悪さは家庭などで反復する機会が少ないこと、日常生活の技能が身につくことを家族を含めて周囲が高く評価しない傾向があることなどが原因と考えられる。特に高校生は、生活自立に関わる技能の習得に興味・関心があり重要と考えているにもかかわらず、現状の生活実態では自立への自信と意欲を失いかねない。今後の取り組みとしては、ミニマムエッセンシャル料理として名付け基本に直結した簡単だが応用のきく調理実習を行い家庭での実践を促す。身についた技能を授業で確認できるよう学校と家庭が連携していける内容の調理実習開発が必要である。家庭科の学習のみが実践の機会である現状から、少しでも自分の家庭生活にいかし、食の自立をすすめていける学習の構成が急務であろう。